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肌感マンガ業界

こんにちは桃缶です(^ω^)
読切漫画の作り方を学んだ話》で書きましたが、ここ最近雑誌の編集部ともやり取りをしております。
これまではWEB漫画でしか描いたことがありませんでしたが、雑誌の市場にも参入したいな~と思いふたたび某出版社を訪れたわけです。
雑誌漫画とWEB漫画ではそれぞれ事情も方針も文化も違うので、当然ですが持っている市場も違います。
WEB漫画をやってみてわかったことと、雑誌漫画の編集部とやりとりしてわかったことなどをまとめてみます。
これから漫画業界に足を踏み入れたいと思っているかたのヒントになれば幸いです。

◆WEB漫画はほぼ定型で作られる

Webtoonを除くページ形式のWEB漫画についてのお話です。
WEB漫画って、描かせてもらえる枠組みがあらかじめほとんど決まっています(女性向けは特に)。
・悪役令嬢
・異世界転生
・不倫/夫婦問題
・溺愛系
・胸くそスッキリ
だいたいこのへんです。

WEB漫画で女性向けを描くなら、「これらのなかで描きたいものはどれですか?」と聞かれます。
「普通の恋愛系漫画描きたいんだけどな…」というひとはだいたいが溺愛に分類されていくのではないでしょうか。
「まあでも、恋愛漫画好きだし溺愛なら…」と引き受けたとして、そこから自分の好きに描けるのかというと、そうではありません。
「溺愛だったら、主人公はイヤミなライバルにいじめられている設定にしてください。そこへハイスペックイケメンが現れて主人公を溺愛する感じで」と言われます。

………。

それもう7割ほどすでに決まってない???( ゚Д゚)

そうです。
シンデレラストーリーにするための設定が定型として決まっているのです。
なぜかって?
広告を定型で打つためです。そして溺愛系が好きな読者に安心して定型の溺愛を楽しんでもらうためです。

これが夫婦問題系だったら?
まず夫をク〇ヤローにします。
そのうえでとことん夫をサゲてサゲてこてんぱんにのして、妻がスッキリする展開です。

なんかもはやヤラセ番組に近い気が…(;'∀')
WEB漫画ってなんでこんなことになっちゃってんの?
その背景をちょっと考えてみます。

◆売れるもの至上主義

雑誌漫画の親は出版社ですが、WEB漫画の親はだいたいがIT企業です。
プラットフォームを提供し、アプリの開発をし、ネット上でサービスを提供することが主です。
つまり「出版物の専門家ではない」。
基本的に漫画文化を大切にするとか漫画の多様性を担保するといった理念がありません。
ネットを介し多くのエンタメを提供し利益を得る、これが目的です。
「売れるものだけ効率的に作る」ことに特化しているのです。

結果、市場分析の結果に基づいてサービスを提供していくことになります。
「頻度高く読まれているジャンルは何だろう?」→「〇〇か!では〇〇を量産しよう!」
このように売れるものだけを量産した結果、上記のようなジャンルが残ったのだと思います。
だからいくらファンタジーやSFを作ったところで読まれるジャンルに比べたら利益が薄いので、市場価値が低い=企画が通らないというわけです。


定型ストーリーも、読者が安心してお金を支払うための仕組みです。
内容がわからないものに課金した場合、それが満足いく内容でなかったらクレームに繋がったりします。
漫画において「この先どうなる感」と「内容がわかって安心」は相反する要素ですが、広告で見せる定型ストーリーで安心感を与え、読んでいくうちに読者の期待を上回る「どうなる感」を演出できればベストです。(はい!すっごい難しいです!!)

企業である以上利益を追求するのは当然のことです。
「売れるものだけ作る」と全部利益になって万々歳な気がします。
が、しかし…

売れるからと同じものだけ作っているとどうなるか。
当然ですが市場に似たようなものが溢れて区別がつきにくくなります。
結果、消費者の間では「どれも同じ」という認識になり、商品の価値が下がるのです。
そう、商品価値とは、「どれだけ他と違うか」
(『紅一献』のなかでも他との差別化について触れてるよ!)
さらに、同じものが溢れ商品価値がわからなくなった市場はどうなるか。
光の速さで廃れていきます。

WEB漫画のジャンルを売れるものに絞って量産し続けると、商品価値がどんどん下がり、荒廃スピードを速めることになるのです。

でも、そんなことは最初から織り込み済みです。
売れジャンルを切り替えればいいだけなんですから。
「〇〇が売れなくなってきたな、じゃあ次に売れてる△△の商品増やすか。」
乗ってる船(ジャンル)が沈んできたら隣の船に乗り換えて進めばいいだけです。
日本人はジャンルわけが大好きで、とにかく細かいジャンルが無数に存在しますから、船ならいくらでも作り出せるのです。
(例えば溺愛系のなかでも年下×溺愛とか俺様×溺愛とか幼馴染×溺愛とか…)

漫画を作っている側は「いろんな人に読んでもらいたい!」と思って作っていると思うんですが、飽和状態の市場に出したら価値はつかないし、スカスカの市場に出したらそもそも読まれない。
どこの市場に出すかというのは、実は作品の内容以上に作品を左右するわけですね。
なのでWEB漫画で描こうと思っているひとは、WEB漫画の特性上売れるジャンルはある程度固定されていて、且つトレンドにのっかった漫画の作りを求められることは把握しておいたほうがいいと思います。

◆出版社はWEB漫画作家に厳しい

一方出版社はというと、やはり「表現の自由を守る」という使命感を強く感じます。
もちろん売上も大事ですが、マイナージャンルであっても質が高ければしっかり保護する姿勢がみられ、漫画の多様性を維持しようと努めているように感じます。
WEB漫画で定型ストーリーが求められるのに対し、雑誌では類似作品を許しません。(ワン●ースが流行ったときは投稿作にワン●ースと似た作品が増え、鬼●の刃が流行ったときは鬼●の刃っぽい投稿作が増えたそうで…。編集部は類似作品にウンザリしたようです。)
だからこそ、作品ひとつひとつのクオリティを重視します。
WEB漫画のように売れジャンルを量産するというよりも、より質の高いものを厳選して世に出す、というイメージです。
これは《商業漫画の体感的難しさ》でも書いたとおりです。

出版社の編集さんとやりとりして感じたのは、「出版社はWEB漫画作家のクオリティを信用してないな」ということでした。

これまでは漫画家を目指しているひとは雑誌の漫画賞を通過して漫画家になるというルート一択でしたが、昨今はWEB漫画で採用されたら即デビュー&即連載!という一見夢のような選択肢ができて、WEB漫画出身作家が急増しました。
雑誌ではなかなか賞に入れなかった漫画家志望者も、WEB漫画にはイッパツで採用された、なんてことも。
(かくいうわたしも雑誌で賞をもらったあと読切がなかなか採用されずくすぶっていました…)
漫画家志望者にとってはチャンスが増えてハッピーに見えるかもしれませんが、裏にはやはり前述のようなWEB漫画の思惑(=売れジャンルを大量に描かせること)があって、さまざまな制約の中で描くことになりますし、大量類似作品のなかでPV稼がないとすぐ打ち切られるという過酷なレースに参加させられるのが実態。

「やりたかったこととちゃう!!( ゚Д゚)」
そう思ってふたたび雑誌漫画へ駆け込む作家も多いのです。(鏡を見る…)
だいたいが似たような事情だからでしょう、WEB漫画から来た作家に対して雑誌漫画の編集部の目は厳しいです。

「即デビュー即連載につられてWEB漫画に行ったはいいものの、やりたいことができないからといってこちらに来られても、類似品しか作ってこなかったひとに独創性ある作品描けるんですか?」(^-^)ニコッ

言葉にしては言わないけど、まあ、空気としてはこんな感じ…。(;'∀')
WEB漫画で連載していた作家でも、一般公募で賞取るところから再チャレンジしてくださいと言われることもままあります。
主に画力とネーム力が商業レベルに達していないと判断されることが多いです。
とにかくそのくらいWEB漫画作家(未受賞)には信用がない。

作家側も、「わたしはWEB漫画で連載経験がある!単行本も出てる!だからおたくでもチート枠(即連載)として扱ってくれ!」と言いたくなる気持ちもわかるのですが…。
一般転職の場合を考えてみましょう。
「まずは試用期間3か月から」ってなりますよね。
同じ心構えでいたほうが良いと思います。

◆作品を売ってもらえる場所

コロナの巣ごもり需要もあって、漫画業界全体の売上は好調のようです。
とくに電子コミックはプラットフォームさえあれば先行投資(印刷代など)が要らないので、IT会社が新規参入しやすい環境だと思います。
元手をかけずにものが売れる仕組みっていいね!(^-^)bグッ
そう思って電子コミック市場に新たに参入する企業が多かった…かどうかはわかりませんが、一時期有象無象のコミックアプリであふれかえりました。

しかし、前述のとおりWEB漫画は「売れるものだけ作る、売れなかったら即廃止」という傾向が強いです。

漫画もPV稼げなかったらすぐ打ち切りになるし、レーベルも立ち上げては消えていく。
WEB漫画市場はコミックアプリで溢れ、どこの会社も「自社オリジナル」の作品を欲しがるけど、周囲も似たような施策をやってるもんだから当然読者は分散。
こうなるともはや社名やアプリ名の知名度がものをいいます。
こうして市場淘汰されていくわけですね。
すでにWEB漫画において強いコミックアプリは固定されているので、これから新規参入で上位争いに入るのは難しいと思います。

さてこの自社オリジナル、実は裏でさらに細かく分かれてます。
コミックアプリのオリジナル漫画とよばれるものにも種類があって、「外注モノ」と「自社モノ」があるのです。
「外注モノ」とは、編集プロダクションなどに依頼を出して作ってもらったもの、「自社モノ」とはアプリ運営会社内に編集部を設けてそこで手掛けたもの。
最初は外注して作品を集めるしかなかった電子書店も、大きくなってくると自社で編集部を持ち始め、自社レーベルを立ち上げます。
すると、何が起こるでしょう?

「うちの子」と「よその子」では、当然「うちの子」のほうが可愛いですよね。
というか自社モノは外注費を抑えてより低コストで作れているわけだから、こっちの利益を伸ばしたほうが実質儲かるわけですよね。
同じコミックアプリ内でも外注で仕入れた漫画と自社レーベルの漫画とでは広告の扱いが違ったりします。
となると、WEB漫画の場合コミックアプリ運営会社直属の編集部(レーベル)が、WEB漫画作家にとって自分の作品をより売ってもらえる場所、ということになります。
最初はあんなに頼ってきたのにな…って編集プロさんも悲しくなっちゃう。
(´_ゝ`)
でも、大企業になってくると外注するより自社で賄おうとする動き(M&A然り)が出てくるのは自然なことだし、もしかしたら編プロやWebtoon制作スタジオなんかもこれからバンバン傘下に入っていくのかもしれないなぁ。

コミックアプリの上位はおおよそ決定したものの、読者の側からするとやはり「昔からあるもの」には絶大な信頼を寄せています。
あと数年たてば立場も変わってくるかもしれませんが、現状、漫画を売る力(宣伝力)はWEB漫画より出版社のほうが持っていると思います。
ここまでコミックアプリの話をしておきながら…(;'∀')ワァ
それでも、出版社は強いんです。

日本の有名4大出版社名、知らないひとほぼいないですし。
書店に行けば出版社名で棚が区分けされてますし。
紙媒体好きは紙で全巻揃えたい欲求がありますし。
この有名出版社からの出版物として世に出たものは、それだけで価値がつくのです。
なので出版社名とともに作品が出せることは作家にとってはかなりプラスになります。
みんなこのチート能力を使いたいがために、狭き門に殺到しているわけですね。

たかが知名度、されど知名度。
消費者はこの「知名度」にたやすく左右されます。
だから市場が動くのです。


◆奢れる者久しからず

まだまだ出版社のほうが強い、たぶん出版社の編集部もその認識なんだと思います。
だからなのか、あまりWEB漫画の動向を気にしていない編集者が多い
WEB漫画にも雑誌漫画にも執筆している作家を抱えていてさえ、知らないことが多い。
出版社でのキャリアが長いひとほど、WEB漫画についてほぼ何も知らないし、興味もなさそう。
自分はいち編集者だし、WEB漫画と紙漫画じゃ作りが違うし、現場業務が忙しすぎてそんなことまで気が回らない、っていうことかもしれないけど…。
うーん、これは、「出版社強い」の牙城を崩す要因になりかねないなと個人的には思います(;'∀')

ビジネスにおける危機感のなさ=衰退の始まりなんですが、だいたい当事者意識が薄まっていくから起こるんですよね。
成熟した組織は業務分掌が進んで、自分の業務以外に興味を持たなくなり、隣の部署が何やってるか知らなかったり自社内でカスタマーを取り合ったりと、内部の分断が起こっていきます。
そうした症状は現場(経営層から遠い)ほど出やすくなるもの。
勝ち組だとしても、市場調査は欠かせません。
そしてデキるひとは言われなくてもちゃんとやってる。
漫画市場の動向には、出版社系よりもコミックアプリ系の編集者のほうが敏感な気がします。(売れジャンルを追うWEB漫画の特性もある。)

某WEB漫画トップアプリが出版社を傘下に入れることを考えてるかもしれないし…。
表現の自由や多様性を残せるように賢い判断をしていってほしいなあと心から願います。


◆まとめ

なんだかあんまりポジティブな内容にならなかったな…(;'∀')スミマセン。
しかし、この世には「夢のようなおいしい話」はないし、「絶対に潰れない会社」も存在しない、それに加えて綺麗にwin-winな取引も実はそんなに存在しない
いまある状況のなかで、どう最善の選択をしていくかしかないんですね。
零細作家が大半のなかでインボイス制度も始まろうとしてるし…
やっぱりこの世は無知だと搾取される仕組みになってるんだなと改めて感じます。。。
会社員にも個人事業主にも優しい日本社会を目指して、政治家のみなさんほんと頑張って…!!(人ω<`;)

しかしながらどこまでいっても、ビジネスは人対人。
不誠実な行いはどこかでツケになって巡ってきます。
やはり誠実な対応こそ最後の砦
どんなに痛めつけられても(そもそも痛めつけられたくないけど)、少年漫画の主人公のように、最後までまっすぐでありたい。




わたしの好きを詰め込んだマンガですが、届いてくれることを願って。応援いただけると本当に嬉しいです。