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街は劇場

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日々すれ違う名も知らぬ皆にツッコんだりグッときたり
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#フィクションとノンフィクションの間

猫 あの日歌ってた男と聴いてた女の子たちへ

すこし前に流行った「君は猫になって去った」みたいな歌を、霜月後半とある夜とある駅前広場で若い男がギターを弾きながら歌っていた。 イラッとした。 でもあの歌のなんかなんちゅうか雰囲気なんだろうか。 いや、寒さの中のあのメロディーあの歌詞、 しかも無名の若者が一生懸命に歌っているという状況ゆえか。 状況とエモさが重なり誰かの気持ちと共鳴するん? べたっと座り込んだ何人かの女子が一生懸命に聴いていた。 彼女らが猫が好きなのか今歌っている目の前の歌い手の顔が好きなのかは知ら

サンクチュアリ 猿桜がいっぱい居た

とある神社の秋祭りに行ったら、 ここ数年コロナで開催自粛だった奉納こども相撲が行われていた。 しばらく観ていると、勢いよく土俵に上がってくるのも、勝ち上がるのも女の子のほうが多かった。もちろん服は着たままだけど。 元気な女の子たちは堂々としていて、 「●●ちゃん、横綱です~!」などと法被を着た司会のおねえさんに紹介されるときゃっきゃと手を挙げマイクで自分の名前を言い、おっきな記念品をもらって、勝利後の屋台のおでんを頬張っていた。 猿桜だ。猿桜がいっぱい居た。 * *

正解とバニラアイス 正解の話をしませんか

今日は正解の話をしましょう。 仕事の合間に「アイス食べたいなあ」と近所のコンビニに行って冷凍ケースを覗いていたら後ろから声がした。 「あ、これ買お」 振り向いたら知らんおっちゃんが同じく覗き込んでいた。 おっちゃんはスーパーカップバニラ味をケースから取り出して言った。 「正解でしょ?」 え。何。わたしに言った? なんて返したらええ? 口は勝手に言うていた。 「正解です絶対!」 「やろ~!?」 おっちゃんは満足そうにレジに向かって行った。 じわじわきた&きている。 正解っ

秋味 あの歌い手とおやじたちはわたしたち

陽が落ち薄暗くなった境内、 祭り提灯がぼんやりと照る中、 特設ステージで歌う彼女は見たことも聞いたこともないひとだった。 電柱に無造作に吊られている音響は拡声器の延長みたいな簡素を通り越したもので歌声は分散され、声が割れてしまう。 そんなステージに現れた彼女は、よく言えば清純派なワンピース、わるく言えばお金のかかっていなさすぎる衣装に身を包んで次次に昭和歌謡を披露する。 近所のローソンで買ってきたビールを呑み呑みの大人たちや 祭り屋台のこてこてソース味やべったべたシロップかき

丁々発止みな必死 わたしたちはみんな庵野秀明

「ペンギン村に住みたいなー」 なんてフザケて言っていたことを盆踊りの爆音『アラレちゃん音頭』を耳にして思い出した。 きっとめっちゃ体力いるやろけど。 まずお日様に挨拶せなあかんしなあ。 あれは若い頃、夏、 書き屋仲間何人かでドライブに行ったとき。 帰りの車中のBGMがなぜか昭和アニメソングだった。 かけたのは先輩構成作家。 べっくらこいた、ほよよでホイ。 流れてきた御陽気な音頭に思わずつぶやいたら、 パイセンがしみじみとおっしゃった。 「わかる。俺も住みたい」 「住みたいで

お祭りの夜 いつかの夏の怖い話

あれは何年前だったかな。数年前。 ちいさな公園で行われた盆踊りの夜。 聞こえてくる賑やかを通り越して家にはいられないほど大きな音につられ、祭の場所へとひとり向かったときの出来事でした。 輪となり踊る人、屋台に群がる親子連れ、 りんご飴に綿飴にソースの匂いにお面の顔、顔。毒々しいほどの色と匂いと音。 チューハイ、集う若者、呑む人々。浴衣。 肌に貼りつくような暑さとじめじめ。 輪に目をやってぼぉっとしていたら、頭に何かが当たりました。 当たるなんてもんじゃない、直撃しました、

Laundry

コインランドリーって駅みたい。 誰かが来て、去って、すれちがって、また来て、去って。 また会えるかもしれないけれど会えないことも(のほうが?)多かったりもして。 特に会話を交わすわけでもないけれど、ひとりのときもあるけれど、誰かに会って。 なんか駅みたいやなあ、って思うのです。 最近よく行くようになった。 きっかけは出先で使って便利やったことや 近所でもおおきいものとか洗ったり乾燥したり特にこの雨の季節はありがたい。 もあるのだけれど、それと同時に、いや、それよりもかもし

仏と戦国武将とにゃんこ大戦争とちびっことわたし

街中によくあらわれる某宗教団体の建物の前、 信号待ちで立ち止まったらちびっこが大声で言っていたからびっくりした。 「僕らは死んだら仏様になるねん」 思わず振り向くと、お母さんらしき人が申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。 ちびっこは構わず妹(だと思う)に 「今日戦国武将の話しかしてへんわ俺」とか 「ちゃうわ、にゃんこ大戦争の話しかしてへんわ」とか言っていて そうしているうちに青信号に変わったのでわたしもその家族も歩きだしたのだけれど。 〝仏様〟〝戦国武将〟〝大戦争〟 ワードが

上を向ぅいて

母方の祖母は歌が好きだ。 通っているデイサービスの催しものの中でも 月1のカラオケの日を心待ちにして稽古をしている。 長年昭和歌謡番組を担当してきたといういけすかねぇ孫が、 週に何度かの訪問の際に面白がってスマホのYouTubeから大音量で動画を観せたことが、いけなかった。 「今時はそんなケータイから音が出るのんか」 「せやねん。携帯から音出るし観れるねんで」 延々リビートさせる。耳元に置かせ大音量の中よろりよろりと歌う。 歌詞を紙にデカい字で書いて渡せと言う。 「なんやこれ

演歌とソウルと峠の話

演歌の歌詞の大半は「アウト!」だと思っている。 笑えんけど笑えたり、笑わなしゃあないレベルで笑ったりする。笑えない。 例えば、ちびまる子ちゃんが歌うことでもお馴染み、 殿様キングスの『なみだの操』、あれ、あかんやろ。 おっさんが歌うからよりキモいと思ってしまうのかもしれない(失礼) 似た系統の「塩辛声のおっさんが歌う古い女(男にとっての都合のエエ女)の歌」といえば宮史郎とぴんからトリオの『女のみち』もある。っていうか、こっちが先。 この歌は旅芝居界でも1,2を争うイケメン

のど自慢はピアノ・マン

日曜昼にのど自慢で聴く『ピアノ・マン』はなんだかよかった。 のど自慢がのどじまんになった。 ロゴだけじゃない。司会者も代わり鐘のおじさんも代わり、生バンドもなくなった。 新年度から司会者が変わることはニュースで知ってたし、 鐘の名物おじさんが居なくなることは3月最後の放送の発表で知らされた。 でも生バンドがなくなることは知らず昨日番組が始まる直前に知人から聞く。 え、ないの。カラオケになるの。それはどうなの。 ちょっと検索したら同じ戸惑いを持っている人は少なくないみた