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街は劇場

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日々すれ違う名も知らぬ皆にツッコんだりグッときたり
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#1日1エッセイ

狸の豆腐 職人、仕事、場所、気持ち

豆腐屋の話をする。 通い出したきっかけはミーハー極まりない。 某江戸戯作者の名を商品名とした豆腐などがあると知ったからだ。 若くないけれど若者が来るのが珍しいのか。 御店主に覚えられて、たまにオマケもいただく。 御店主は顔付きも手付きも「The 職人」だ。 狸的な雰囲気を感じたりもする。 悪い意味での狸じゃない。 見た目がとかでもない。 なんというか長年生きてる狸みたいな。 『平成狸合戦ぽんぽこ』の長老狸的なね。 飄々としているのだけれど、 その手や皺や顔とかが、ああ、職

信号 灯 水槽

夜のロードサイドにぼんやり光るそこにはあたたかみがある。 けれどどこかしんとした怖さや寒さのようなものも感じるのはわたしだけかな。 人が思い思いの買い物目的で寄る場所、人工的な灯りと機械的な雰囲気、 でも人が居る24時間ずっとあいているその場所に。 しばらく臥せっている間に、 以前書いた改装中にもロゴが光っていてたコンビニが再開していた。 日曜の夜、すこし歩いて行くと青白い灯りに吸い寄せられるように人が入っていくのが見えた。 水槽みたい。 と、ぼんやり思ったのは赤

雪女 バス停で会ったあの人はきっと間違いなく

「寒いな」 地方のバス停のベンチで さっきからちらちらとこちらを見ていた年配の女性が言った。 目を合わすと、待っていたかのように声をかけてきた。 「寒いですね」 「なあ」 夏木マリに更にプラス10歳くらい歳を重ねて 前傾姿勢にしたようなそのひとは、まだ話したそうな様子、話してくる。 バスはまだまだ来ない。 「あと6分くらいあるで」 「ほんまに。寒いですね」 かくして話す。 「雨、降らへんからまだましやな」 「あ、降らへんねや。ちょっと空あやしいです

駄菓子 仕事中の逃亡とクソガキ

仕事中に逃亡した。 近所のコンビニにである。 さっきのことだが毎回のことだ。 ちょっと行き詰まったり、 というと大ごとのようだが全くもってそうではない。 書いててスッと言葉出てけぇへんなー、 これちょっとなんか体からスッと出てへん感じやなー、 そのままごまかして書いてもええねんけど、 そうすることも少なくはないんやけど (そうせなあかんことや仕事も残念ながら少なくはないねんけど) それはそれがなんか嫌やなーそれは、みたいな時は、 歩いたり、 コンビニという雑多な場所でいろいろ

からだ 年明けのプロレスビッグマッチに人間を想う

身体。肉体。からだ。 1.2と1.4が終わった。 プロレスリングNOAHと新日本プロレスの年明けビッグマッチだ。 現地では観ていない。配信を観た。 前者は身内というか親戚の寄り合いというかごちゃごちゃ的なものから逃げれないのに逃げ切って観て、後者は仕事をしながら観た。 どちらにも特にめっちゃ好きな選手がいるかと言われたらそうではない。 どちらにも団体や会社へ思うところがありまくるというか、でも、観る。ツッコんだり怒ったりしながら観る。 例によって詳しいことは書かない、

昼過ぎに歩いていたらどっかの店から CHAGE and ASKAの『YAH YAH YAH』が聴こえてきた。 爆音で。 なんでやねん。 脱力してツッコんで、でも聴いてしまった。 改めて聴くとすごくないですか。 こんな勢いだけの曲ってある? しょうもないことを考えているうちに曲は盛り上がり盛り上がり 遂にあのサビに来る。 「ヤーヤヤーヤ!」 なんやねん。 すごい。すごすぎる。 陽キャとか応援ソングとかの域をもう越えている。 敢えて言うなら戦隊もののヒーローショー

Tシャツ百景

ちょいと前の話なのだが 仕事関係の人に誘われた焼肉屋にプロレスTシャツで行った。 背中で血まみれの選手が笑っているという、あまり外では着られへんやつ。 かといって観戦中に着ている訳でもない。 そもそも最近はあまり会場にも行っていないし、一番好きな選手とかでもない、嫌いじゃないけど。 デザインがいいなあというのと、仕事中に己のテンションを上げるために買うたやつ。 店には、偶然、格闘技のポスターがたくさん貼られていて、案の定ママさんが声をかけてきた。 「おねえさんのそれ、●●で

丁々発止みな必死 わたしたちはみんな庵野秀明

「ペンギン村に住みたいなー」 なんてフザケて言っていたことを盆踊りの爆音『アラレちゃん音頭』を耳にして思い出した。 きっとめっちゃ体力いるやろけど。 まずお日様に挨拶せなあかんしなあ。 あれは若い頃、夏、 書き屋仲間何人かでドライブに行ったとき。 帰りの車中のBGMがなぜか昭和アニメソングだった。 かけたのは先輩構成作家。 べっくらこいた、ほよよでホイ。 流れてきた御陽気な音頭に思わずつぶやいたら、 パイセンがしみじみとおっしゃった。 「わかる。俺も住みたい」 「住みたいで

お祭りの夜 いつかの夏の怖い話

あれは何年前だったかな。数年前。 ちいさな公園で行われた盆踊りの夜。 聞こえてくる賑やかを通り越して家にはいられないほど大きな音につられ、祭の場所へとひとり向かったときの出来事でした。 輪となり踊る人、屋台に群がる親子連れ、 りんご飴に綿飴にソースの匂いにお面の顔、顔。毒々しいほどの色と匂いと音。 チューハイ、集う若者、呑む人々。浴衣。 肌に貼りつくような暑さとじめじめ。 輪に目をやってぼぉっとしていたら、頭に何かが当たりました。 当たるなんてもんじゃない、直撃しました、

まっすぐ それぞれの『青春の影』

チューリップの『虹とスニーカーの頃』を聴いた時はぶったまげた。 初めて聴いたのは若い頃、ワルい年上の友人たちとの徹夜カラオケだった。 だいぶ年上の「職業・芸者」の姐御が明け方頃に踊りながら歌った。 「この歌……すごい歌詞やね」 「え、そんなん思ったことないわ、でもそう言われてみたらヤバいな(笑)」 「ヤバすぎる、歌い出しから、しかも何度もそのフレーズ出てくるし」 「そういう時代だったのよね、おい和夫(笑)」 先日NHK「のど自慢」のトリとして登場した方の歌を聴いて数日して思い

骨 あなたって、あなたって

チェーンの古本屋のカウンターでお客さんが店員さんに延々話しかけていた先日。 (おっちゃん、にまでいかない、にいちゃん) どうでもいい世間話や己の話を延々と延々と買取カウンターでしていた。 わたしが売ってる間も買うてる間もレジに居て話しかけていたから短い時間ではない。 店員さんはうまく相槌を打っていた。いつものこと、いつもの人なんだろうなと思った。 なんやろね。なんなんやろね。キモいね。やさしいね。 以前スーパーで似た状況に遭遇して店員さんと目が合った話はここに書いた。 ほ

火曜日に大阪駅で鮫を見た。 嘘、鮫(サメ)のぬいぐるみを抱きかかえている 小学生くらいの男の子を見た。 なぜ鮫?! ギョッとしたのだが、 そういやこの何年か流行っているのですよね、鮫のぬいぐるみが。 IKEAの鮫。BLÅHAJ(ブローハイ)というらしい。 え、世界から流行なん? 世界的に流行してるん? え、何、ロシアから鮫が流行? それちょっとなんか嫌じゃない? あ、過剰反応? え、売り切れるほどなん? そんなに流行りなん? なんで? と、ちょっと調べたら、主にSNS

ひよことフィリップ・マーロウ

朝の商店街の前に大量のひよこが、と思ったら幼稚園児たちだった。 あの黄色い帽子はいつ見てもひよこを連想させる。 狭い商店街の入口を20人弱がふさいでしまっていた。 若い元気そうな男の先生が声を張り上げる。 「ほら、お買い物の人たちの邪魔にならへんよーにー!」 わたしはちびっこがあまり好きじゃないというか得意じゃない。 頭が下がる。幼稚園の先生ってほんまたいへんそうな仕事やなあ。 お天気の日に外に出ての課外授業? そりゃひよこたちもテンションあがるよね。 わらわら楽しそうに思い

日曜日よりの使者

日曜夕方晴れ川沿いを自転車で走った。 諸々の理由で午前中ずっと力仕事的なものに駆り出されていたがやっと解放され、でもその延長の用で近所からすこしいった川沿いを走る、民家の並びも横目に走る。 ふとみると、と言っても通り過ぎる一瞬だが、 若い男の子たちが倉庫のガレージでバーベキューをしていた。 男4人、ちょっとヤンキー感もあるけれどそこまで若くもチャラくもない兄ちゃんたちが、げらげら笑いながら、でも騒ぎはすぎず、肉を焼いて、食べていた。 川沿い、晴れすぎない暑すぎない、空、雲、倉