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街は劇場

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日々すれ違う名も知らぬ皆にツッコんだりグッときたり
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2024年3月の記事一覧

十八番 「それイマイチやわ。キモいわー」な路上ミュージシャンと

普段なら素通りだ。 でも足をとめた。 鶴橋駅のあのガード下の雰囲気のせいかな。 芸や生きることをぼんやり考えながらの嬉しい帰り道の日だったからかな。 スタンドマイクの下にさっきまで呑んでおられたのであろうロング缶が数本並んでいたのを見たからかもしれない。 「なにが人気? 得意ですか?」 「お! いいですか!?」 歌い出し歌い上げてくれたのは尾崎豊の『Forget-me-not』だった。 ちゃんと聴いた。 聴き終わり、口から出た、出した。 「それイマイチやわ。キモ

雪女 バス停で会ったあの人はきっと間違いなく

「寒いな」 地方のバス停のベンチで さっきからちらちらとこちらを見ていた年配の女性が言った。 目を合わすと、待っていたかのように声をかけてきた。 「寒いですね」 「なあ」 夏木マリに更にプラス10歳くらい歳を重ねて 前傾姿勢にしたようなそのひとは、まだ話したそうな様子、話してくる。 バスはまだまだ来ない。 「あと6分くらいあるで」 「ほんまに。寒いですね」 かくして話す。 「雨、降らへんからまだましやな」 「あ、降らへんねや。ちょっと空あやしいです

龍 銭湯を探すひと

あれ、幻やったんかなあ、と今でも思う。 いや、幻やない。 何日か、いや、何日も前の話だ。 「すみません。このへんに風呂ないっすか」 コインランドリーにしばしば行く。 家に洗濯機がない訳じゃない。 洗濯が嫌いじゃないむしろ好きなわたしは、 時に手当たり次第なんでもかんでも全部まるごと洗いたくなる時がある。 着るものだけじゃなくなんでもおっきなものとかを がーっと洗ってざーっと乾かして「ぼーっ」する時間を尊く思う。 これも、数日前に書いた仕事の合間の「逃亡」の場合が多いん

paradiso 惚れました

ドアを開けてすぐに綺麗なパンたちの並びに目を奪われた。 しばし見とれてしまい「はっ」として目を上げると レジ前でシェフと常連さんが話してる。 おかしな話だが、シェフの顔とその手が目に入った瞬間にもう満足をした。 「どうぞ。大丈夫ですよ」 いらっしゃいませ、じゃない。 あきらかに初めての客に対して笑みを、それも満面の笑みじゃない、 〝職人〟の顔を残したままの笑みを浮かべ、奥の席に手招きをくれる。 その手を見て勝手に思った。もう、この時点で満足だ、と。 「パン屋のイートイン」なん

その日のおにぎり 食べることは生きること

快速電車のボックス席でお弁当を食べている人を見た。 乗り込んだ瞬間目に入った。 ちょうど食べ終わったところのようで ランチクロスというか大きなハンカチというかアレでお弁当箱を包み直しているところだった。 「!」 彼とは離れた席に座ってもう一度 「?!」 電車を降りて目的地まで市バスに乗った。 途中のバス停から女子高生2人がわいわいと乗ってきた。 うちの1人はコンビニのホットドッグを齧りながらだった。 パキッとするケチャップとマスタードを追加でかけながら齧りながら喋ってた。

駄菓子 仕事中の逃亡とクソガキ

仕事中に逃亡した。 近所のコンビニにである。 さっきのことだが毎回のことだ。 ちょっと行き詰まったり、 というと大ごとのようだが全くもってそうではない。 書いててスッと言葉出てけぇへんなー、 これちょっとなんか体からスッと出てへん感じやなー、 そのままごまかして書いてもええねんけど、 そうすることも少なくはないんやけど (そうせなあかんことや仕事も残念ながら少なくはないねんけど) それはそれがなんか嫌やなーそれは、みたいな時は、 歩いたり、 コンビニという雑多な場所でいろいろ

新 葉隠

駅のホームを歩いていたら斬られた。 正確に言うと違う。 斬られてない。 目の前に木刀が振り下ろされたから「はっ」となった。 一瞬のことだった。 「!」 ぼぉっとしながら歩いていたから 突然目に入った切っ先に思わず刀の方を見ると まず刀の主ではないお連れさんがびっくり顔で「Wow」って言って 刀の主は「Oh」って正気になった。 わたしは笑ってお連れさんの方に「うんうん大丈夫」っていうジェスチャーをして皆笑って別れたのだけれど、やっぱり危ない。 お土産屋さんとかも注意