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日々日々

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1日(なるべく?)1エッセイ。思うこと考えることを綴っています
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#エッセイ

ボクサー Man of La Mancha

セルフレジに向かってシャドーボクシングしているおっさんを見かけた。 混雑した店の中の一台に冴えない風貌のおっさん、 いやニイサンは軽快なパンチを繰り出していて まわりの皆は見て見ないふり。苛々。ひそひそ。 かくいうわたしもぎょっとして二度見してしまい、ヤバいな、 あかんあかん、いや、そんなん見たり思ったりすることがそもそも失礼や。 と、思いなおし己の用を済まし立ち去ったのだが、 華麗なファイトは頭を離れなかった。 帰り道も。その後数日も。   あれは吉田戦車のしいたけやったん

kenema 気音間と花酔骨

先日なんかなんとなくポチった手拭が届いた。 巻かれていた紙の帯の言葉を二度見三度見した。   kenema   (気 ke)美しい気配 (音 ne)美しい音色 (間 ma)美しい間合い   気音間   朝からぱぁーっと晴れたと思ったらズザーッと降った。 また晴れてまたズザーッと降った。 天気雨というのともちょっとちゃうし、 「え? 常日頃の情緒?(笑)」 って誤解招きそう。また笑う。 「日本人の美意識を支える三つの要素です」   雨は夜にはすっかりやんで選挙カーらが走り回っ

ミラーボールと秋祭 いちにちいちにち一瞬一瞬と人間の美

坂東玉三郎がドキュメンタリー番組で言っていたことを時折なぜか思い出す。 「明日のことだけ、考える」 一見というか一瞬「?」とか「うーん」と思う言葉かもしれない。 少なくとも若いというか幼い頃の私は「?」「えー」と思っていた。 でも、でもでも。 いい祭に会った。ミラーボールの下、秋空の下で。 ◆◆ 構成作家/ライター/エッセイスト、 momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。 各種SNSまとめや連載コラムやプロフィールは 以下のリンクにまとめています。 ご連絡やお仕事の

卵と青い鳥 至高と優勝を超えたオムライスがあった

人生とは美味いオムライスを探す旅なんじゃないか。   極めてシンプルな食べ物だ。 卵と米と野菜。完全食? 洋食だけれど和食な気もするし町中華にもあったりもする。 誰にでも作れるけれど高級グリルやこだわりの洋食屋でも目玉になっている。 しっかり焼くものもとろっとふわっとしたものも人気だし 中身はチキンライスが当然のはずだが、え、なんで白いご飯? というのにも遭遇する。 チキンライスの中身だってグリーンピースが入っていたり入っていなかったり、 え、具は入っていますかねどこに居ます

ラムネの玉やんの唄 朝日新聞小泉信一さんのこと

どうやらわたしは誰かのことを思い出すとき顔と共に歌が浮かぶらしい。 声、顔、選ぶ歌の内容、エピソード。 歌っていたときのこと聴いたときの空気。 そのひとの場合は、藤田まことの1曲だ。 十三のねえちゃんの歌ではない。ラムネの唄だ。 曲間にセリフがある。大阪のラムネ売りのおっさんの売り口上だ。 「冷やこいで、冷やこいで」   昭和文化。昭和歌謡。酒場。芝居。寅さん。プロレス。ストリップ。銭湯。 ずっと記事を読んでいて、あれも、これも、「ああ!」「わあ!」。 この夏亡くなられた大先

365歩 どうも、人です

夜道を歩いていたら背後に気配を感じた。 思わず振り返ると後方すこしとおくに人影がゆらゆら。 竦んでしまった。 暗い道だったから。 影には伝わったみたい。 声が来た。 「あの、いや、怪しい者じゃないですよ。ないですからね」 「ないですからね」に“💦💦”がめちゃめちゃ見えるような声と言い方。 酔った知らないおじさんだったみたい。 謝った。心の中で。 謝りながら、でも、なのに、なんだか怖さが抜けず、足早に歩いた。いや、歩いてしまった。 ごめんね。ありがとう。   数日後、昼前、朝、

まっすぐなコーヒー 或いはしあわせについて

パン屋さんのイートインというか、 ブーランジェリーやらベーカリーというような店も好きだがただただ「パン屋さん」みたいな店ででも喫茶も出来て若い人は勿論年配の方々がコーヒーと新聞を楽しんだりお喋りに花を咲かせていて皆自由で干渉もしないし意識もし合わないしみたいな店がわたしは好きで。 自由な皆の傍らで職人さんが黙々とパン生地を捏ねたり焼いたり淡々と自分の仕事をされている決してきれいなんかじゃない作業着姿で淡々とというのが静かに真っ直ぐな気持ちになる。 そんな店で飲むコーヒーは美

昼と夜 人間って、なんか、ほんま、ええよなあ

解体工事の若い人たちが土の上で昼寝していた。 ガタイのええ2人が太陽の下クレーン車の横で作業着のまますげえ気持ちよさそうに転がっていた。 熱いやん。焼けるやん。でもああ皆生きてるな生きてるんよあ。 「!」「?!」からの意味不明にじーんとしながら通り過ぎた。   街を歩いていたら桑田佳祐の祭りのあとが流れてきたから思わず言ってしまった。 「なんでやねん」「ダサ!(笑)」 せやけどこれ聴いて歌って泣くおっちゃんらとか少なくないんやろな。 エモいという言葉はこういう時使うのがしっく

アリクイと名月とさんま

最寄り駅ですれ違った人の鞄にアリクイのぬいぐるみが付けられていたから二度見した。 思い出したのは夜のことだった。   なんでアリクイやったんやろ。 アリクイってどこにおる動物やったっけ。 アリクイ。アンツイーター。 めっちゃ強いプロレスラーみたいな名前やな。虎ハンター的な。関係ない。   なぜちいかわではなくおぱんちゅうさぎでもなくサメでもなくアリクイだったのか。 余計なお世話である。  ただアリクイだっただけ。 アリクイが好きなのかもしれないしたまたまなのかもしれない。 意

雷獣と仙人 連載中のTabistory最新話も出ていますおおきにねの話

昨夜、獣に遭った。 近所のコンビニ近くの細道を細長い狸のようなものが歩いていて、 傍で三毛猫とおっさんがぼーっと見ていた。 まず猫に気付いて「あ、猫。猫や―」と呼びかけふと目線を下ろすと 狸にしてはちいさくてイタチにしてはおおきいやつがゆっくり歩いていた。 幻ではない。結構長い時間だったから。 悠然と歩いて行って暗がりに消えていった。 三毛猫はぼーっとしていた。 なんだか気まずいのでおっさんとは目を合わさずにコンビニに向かった。 向かいながらあれは雷獣だったのではないかと思っ

ロングロングアゴー 「今」の話

つい昔の話で盛り上がる。 先日若い頃の芝居仲間から連絡が来た。 自分が芝居を始めるきっかけとなったメンバーの出演する小劇場演劇というかコントイベントに行ってきたという報告だったのだが、 そこからわたしが今年再演? 再再演? された松尾スズキの『ふくすけ』(観たかった!)の話題を振ったら鴻上尚史の『朝日のような夕日をつれて』も「2024」として今やってますよねしかも主演は……! それな! 今をときめく大河俳優ですよ! いや、ほんまに! という話、からの、当時の感想メモとか引っ張

踊ってゆこう 気持ちとかたち

音頭とか祭とかの流れか、 夏のこの時期、 浮かれることばかりじゃなく皆で想いを馳せ考えたい時期だからか、 昨日今日『ホライズン・マーチ』(ソウル・フラワー・ユニオン)が ずっと頭の中を流れていた。 尊敬する劇作家がよく舞台で使っていた楽団の歌だ。 ふとしたときに思い出すのはやはりこのリズムだからかもしれない。 自身のルーツを通して、 わかりあえない悲しみと可笑しさとでも希望を描いていたそのひとは、 劇団を解散した後も、 若い人たちと共にこの国と自身の国で舞台から想いを伝え続

バカサバイバー 櫓とあの階段

祭りの櫓に上って踊ることを望む人を 「ヤグラー」「ヤグリスト」と呼ぶこともあるらしい。 櫓はお立ち台文化の元祖だと考えられる。 とは、昨日書いた話の中でも触れた 「盆オドラー」「盆バサダー」さんのとてもいい本で知った。 (『東京盆踊り天国 踊る・めぐる・楽しむ』 佐藤智彦 山と渓谷社 2022) 「ほぉー」「ほほぉー」ってなって、でも、そっから忘れていた。 せやのに、のに、 今日用事に向かいながら歩いていたら「バカ段」のことを思い出した。 バカ段? 馬鹿段? 文字にしたらどっ

きちんと、丁寧に しっかり

きちんと、丁寧。 大平一枝さんが聞き、書かれる人の話、いや人と話、 そして捉え方書き方にいつもじんわりじっくりと“人間”を感じさせられる。 「市井の生活者を描くルポルタージュ、失くしたくないもの・コト・価値観をテーマにしたエッセイを執筆」 改めて読んだプロフィールにもじんわりひたひたと込み上げてくるものがある。 人間は、苦しい。でも愛しい。愛しいのだ。 そう思いたいし思うのだ。思いにくいことばかりだからこそ。 きちんと、丁寧な筆に思わされる。 きちんと、丁寧な筆がおだやかに