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食パンとわたし。

子どもの頃から、朝ごはんはトースト派。

それは、物心ついた時から、父が朝食には必ずバターを塗ったトーストを食べていたからだ。

父は、私が小学校2年生の時に難病にかかり、入退院を繰り返すようになったので、仕事にも行けなくなり、家にずっといた。

家にいる時は2枚一緒に入れて、ポンっと飛び出すトースターで食パンを焼いて、毎朝一緒に食べていた。

父は、たくさん薬を飲んでいた。
だから、パンの焼けた芳ばしい香りは、父が飲んでいたたくさんの薬の匂いとセットになって私の記憶の中にある。

子どもの頃の私は、この薬の匂いが嫌いだった。
父はなぜ元気じゃないんだろうと言う想いが募るからだ。

そんなにひどくはなかったと記憶しているけど、高校生の頃は少し反抗期で、父が使ったあとのバターナイフにパンくずがついているのが気になって仕方ない時もあった。

トーストにバターを塗る「ガリガリ」という音ですら嫌な時もあった。

そういう日、私はバターじゃなく苺ジャムを塗って、一言もしゃべらずに食べ終え、「行ってきます」とだけ言って登校した。

なかなか素直になれず、ゆっくり話をすることも少なかった。

そんな父は、7年前、私が長男を出産した翌日、他界した。

結婚して実家からは少し離れた場所に住んでいたので、父の最後には会えなかった。無事に出産したことも、自分の口では伝えられなかった。

産後、病院の朝食で、ビニールに入ったまま温められたカリッっとしていないふわふわであたたかい独特な食パンを食べた時、父を思い出して急に涙が溢れた。

離れて暮らしてたし、私の人生の中で、そんなに大きな存在だと思っていなかったのに、父を亡くしてしばらくは、産後鬱なのか悲しからなのか、毎日泣いていた。

絵を描くまで、なかなか現実に向き合えなかった。

だけど、絵を描き出してから、ふと父のこんな言葉を思い出した。

ゆっくり話をしていなかったけど、父はずっと私を見ていてくれたのだ。

どうしてもっとたくさん話をしてこなかったんだろう。

もうこの世にはいないけど、今私が絵を描いているのを一番喜んでくれているのは父だ。

このことに気づいてから、トーストの香りとともに思い出すあの独特な薬の匂いですら、思い出すとなぜか父が近くにいるようで心があたたかくなる。
そして、前を向いて進んでいこうと背中を押してくれる。

どんなに後悔しても会えないし、毎朝一緒にトーストを食べた何気ないようでかけがえのない日々はもう戻ってこない。

だけど、そんな日々が今の私に繋がっていることを、食パンを食べるたびに思い出す。

食パンは、私のタイムカプセルだ。

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