見出し画像

【創作小説】クエスチョン・アーク|Ep.10 Spiral Staircase

カラヤン指揮の「展覧会の絵」の演奏は、オーケストレーションをしたラヴェルの風味がよく表れていると感じます。
それにしても、どうしてムソルグスキーはこの曲を世に出さぬままこの世を去ったのでしょうか。友人へのとても悲しい思いに沈んでしまったからでしょうか。それとも、取るに足らない個人の追悼の作品だからと、世に華々しく発表するようなものではないと考えたのでしょうか。

誰にも聞かれぬまま、孤独の中でこの曲を生み出し、彼がそれをしまっておいた理由を知りたいと思うのです。もしかしたら、後になってこの曲が発見され、ラヴェルのオーケストラアレンジが有名になったものを、ここではないどこかから、友人と共に聞いているのかもしれません。
それがどんな理由にしろ、ピアノであれオーケストラであれ、「展覧会の絵」は数々の物語を受け止めて前に進み、そのたびにプロナードに返り、いつしか壮大なゴールへと辿り着く過程を描いたドラマチックな旋律が、それを聞いた世界中の人々の感情を癒しているのです。
その事実が、ムソルグスキー本人へと届いていることを願うばかりです。


ここから先は

3,082字

現実と虚構の狭間で見るイメージを紡ぐ、哲学系幻想小説。

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?