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死の淵を見た男 門田隆将著

死の淵を見た男

門田隆将著 2012年11月 PHP研究所  文庫版は角川文庫

この本、というかノンフィクション作家の門田隆将氏を知ったのは、当時ラジオ放送(ネット配信もあった)されていた、”武田鉄也の今朝の3枚おろし”(タイトルはうろ覚えです)という番組で、紹介されたのを聞き購入しました。

武田氏はその番組で、"私はその本を読みながら、思わず両手を合わせ本に向かって頭を下げた。「ありがとうございます みなさんのおかげで日本が守られました」と何度も何度も涙を流しながら頭を下げた”、とコメントされていたと記憶します。武田氏はほかにもたくさんの名著を紹介されており、たいへんな読書家とお見受けいたします。

この”死の淵を見た男”では、門田氏が吉田所長はじめ現場のみなさん、そして懸命に現場を支えた支援部隊に数限りないインタビューを重ね、”現場では何が起こり、それをどう対応したのか”、現場の息吹が感じられるほどの筆力で書き上げた、まさに渾身の力作でした。

福島第一原発の現場で、”電気がない”というこれ以上想定しようもない、絶望しかない状態であったにもかかわらず、死を覚悟し、現場から逃げだすことなく最後までがんばり続けたのは、吉田所長はじめ現場のみなさんでした。そしてそのほとんど方々は地元出身で、自分の家族と町を守りたい、守らなければならない、との思いだったようです。

一人でも多くの人にこの名著を実際に読んでもらい、また、この原作をかなり忠実に再現した映画を見て欲しいと思います。そして自分達の町を守るのは自分達しかいない、という気構えと、若い技術者や作業者を放射能の危険にさらすわけにはいかないというベテランの人々のまさに命を賭しての決死の原子炉建屋への突入、知恵を絞りに絞った海水注入での炉心冷却、等々を目の当たりにしてほしいと願います。そうやって最悪の事態を、ひとえに現場の力で免れた。技術的困難さに加えて、当時の菅政権、責任逃れに終始した原子力委員会、政権に対して弱腰の東電本社にさえ振り回され続けた。しかし時にはしたたかに、最後は芝居までうって、やらねばならないことをやりぬいた吉田所長率いる作業部隊。

この本は、安直にそして表面的に原発の賛否を問う著作ではないと思います。現実に起こってしまった事故に対して、どう対処したのか、対処できたのか、なぜそこまでやれたのか、”人としての責任感と使命感”を徹底的に掘り下げたとてつもなく深い深い真実の物語です。

一つお断りしなければなりません。本当ならこんな駄文を書く前に、ちゃんと本を手元において自分の記憶にたよるのではなく、きちんと読み直すべきなのですが、実は、肝心の本が見当たらなかったのです。そんな大した分量の蔵書ではありませんが、どこをどう探しても出てきませんでした。たぶん、友達か息子(技術者)にあげたのだろうと思います。本が手元になくても私が感じた事ははっきり覚えています。変な言い訳ですが、それくらい鮮烈な著作でした。

以来、門田氏の鬼気迫るノンフィクションにはまってしまい、”この命義に捧ぐ”で、こんな帝国陸軍の軍人がいたのだと驚愕しました。これは、人民解放軍の台湾進攻を防いだ戦略を立てたとされる帝国陸軍 根本博中将の台湾金門島防衛の話です。根本中将は、ご自宅から”釣りに行く”と釣り竿をもって出たものの、実はそのまま足で九州にわたり、小舟で命がけで台湾にたどりつき、金門島防衛を果たした。しかも帰りは飛行機にのって帰ってきた時、タラップを降りるときは釣り竿をもっていた、というなんとも剛の人です。”疫病2020”、”日中友好侵略史”、等読み漁り、一端のの門田ファンになりました。

また阪神大地震のときは大阪府下に、東北大地震のときは東京に住んで、直接的な被害は免れたものの、会社関係者や知り合いで惨禍に会われた人もいました。私自身、震災直後から色々な体験をしました。そうした私個人の体験もこれから少しづつ書いていこうと思います。なかには悲惨極まりない惨状のなかで、少しだけ(ほんの少しだけ)心が休まった体験もあります。私自身が忘れないように、書いてみるつもりです。

駄文に最後までお付き合いいただきありがとうございます。
一人でもこの拙速なダラダラ文章に騙されて(?)門田作品を手にとっていただけるのなら望外の幸せに思います。


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