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2020年8月の記事一覧

蝉占い

地下鉄の車両を降りホームを辿り改札を出て 薄暗い地下道を当てもなく揺れながら歩いていた しだいに息苦しくなり 地上への階段を手摺りにつかまりながら登っていると 中学生くらいの男女が踊り場の壁にもたれて抱き合っていた 女の背中越しに目の合った男があどけない顔ではにかんだので わけもなく嬉しくなってしまって すれ違いざまに柄にもなく幸せということばが浮かぶ と 突然左右の鼓膜が捻られたように痛み思わず両手をついた 手摺りをつかみ損ねた掌から蝉の幼虫の抜け殻が粉々になってこぼれ落

抱く

こうやって こういうことをやっている その最中にもあなたは わたしに問いかけてくるのだ あなたの右手の感情線は わたしの背中の地平をたゆたう あなたは幾重にも折りたたまれた過去の残像となり わたしは絶え間ない振動のきしみとなり ふたりは人類以前の無言を叫び続ける そうやって そういうことを繰り返している この感情をわたしは名付けることができない あなたの答えのない問いかけとともに (10代最後の夏頃)