修羅場

すぐに向かいます。ただならぬ重々しい空気が漂います。
新しい部屋に移られての数日した夜に大きなムカデが出たとの事です。
夜怖くて一晩中眠れなかたとの事。
「こんな家はいらないので元に戻してください」
最悪の事態です。背すじが凍り付く一言です。
工事中に母屋から大きなムカデが出てきて始末しましたが、もう一匹残っていたんでしょう。
もみの木の抗菌作用のせいで苦しくて出てきたんだと思いましたし、古い家のほうから来たことは確かです。
説明しても納得されるはずはありません。何しろ一晩中ムカデの恐怖で眠れなかったのですから。
今さら何を言っても火に油を注ぐだけです。
自分の力の限界を感じた瞬間です。
着陸地点が全く見つかりません。
さらにヒートアップしていきます。
先生と息子さんが口論になっていきます。
「元に戻して」
「お母さんのためにリフォームをしたんだろ」
「もうここにはいたくない」
「快適な空間で暮らした欲しいいからしたんや」
さらにヒートアップしていきます。
修羅場のトンネルは長くて暗い出口が全く見えません。
何も言えずにただ状況を見守る事しか出来ません。
迫力に圧倒されて何も言えませんし、何も頭の中には浮かびません。
放心状態で嵐の過ぎるのをただ黙って過ごすしかすべはありません。
心ここにあらずの状態が延々と続きます。
最後に息子さんが「もうええわ」となってよかれと思ってのことが最悪の状況になってしまいました。
工事は全工事の三分の一しか完成していませんでした。
全てが終わったとさえ思いました。
そこで何もできない無力さも痛感することにになりました。
長いバトルの末に工事は中断という事で幕引きになります。
苦いもみの木デビューになりました。
しばらく沈黙の時が流れます。

つづく

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