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【観音霊験記 秩父巡礼】第九番明星山明智寺/横瀬の兵衛

出典:国立国会図書館デジタルコレクション
観音霊験記 秩父巡礼第九番明星山明智寺 横瀬の兵衛

観音霊験記 秩父順禮ちゝぶじゆんれい 第九番 明星山めうじやうざん明智寺あけちでら

 めぐりて その名を聞ば あけちてら
   こゝろの月は くもらざるらん

奉額
  ひぐらしや たゞさへ急ぐ 道ながら

横瀬よこせ兵衛ひやうゑ
天正てんせうころ横瀬よこせさとに兵衛といふおさなきものあり。いへまづしきなかに、もうもくはゝ一人をもち、やしなふべきわざもなくて、このてらはやして、このみひろひてかてとせしに、一日あるひ兵衛がこのみひろたるところ老僧ろうそうきたりて、はゝやまひをいやさんとおもはゞ、この妙文めいもんとなへさせよ。

すなはち、「無垢清浄光むくしゆう/\くわう 恵日破諸闇ゑにちはしよあん」の二句にくさづけければ、兵衛ありがたくおもひて、そのもんはゝをしへて、そのにちこの観音堂くわんおんだう通夜つやをいたしけるに、あかつきにいたりて内陣ないぢんより明々めい/\たるほしとびいでて、はゝいたゞきてらすがいなや、まなこたちどころにひらき、母子ぼしともおどろき、かつ、よろこびて、本尊ほんぞんあつをがみつゝかへるがはやく、このこと諸人しよにんにしれ、領主りやうしゆより兵衛が孝心かうしんかんじて、田畠でんぱたたまはり、また、この本尊ほんぞん利益りやく末世まつせにしらしめんと、そのときより明星山めうじやうさんづけられたるは、不思議ふしぎ灵驗れいげんなり。

※ 「通夜つや」は、神社や仏堂にこもって終夜祈願すること。
※ 「内陣ないぢん」は、寺院の本堂の奥にあって本尊を安置する場所のこと。
※ 「灵驗れいげん」は、霊験。



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