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【観音霊験記 秩父巡礼】第二番大棚山真福寺/大棚禅師

出典:国立国会図書館デジタルコレクション
観音霊験記 秩父巡礼第二番大棚山真福寺 大棚禅師

観音霊験記 秩父順禮ちゝぶじゆんれい 第二番 大棚山たいほうざん真福寺しんふくじ

 めぐりて ねがひをかけし 大棚おほだな
   ちかひもふかき 谷川たにがはみづ

大棚たいほう禅師ぜんし
禅師ぜんじは、閑寂かんじやくこのみて、ちかきほとり鬼丸おにまるといふ岩崫いわやこもりて他念たねんなく讀経どくきやうしけるに、ふしぎと一人の老婆ろうば 日夜にちやきたりて洞中どうちう観音くわんおんをがみ、あるひは、はなをさゝげくだものくうじて、禅師ぜんじをもはいすることしば/\なれば、なんぢ如何いかなるものときゝければ、なみだをながして われこのさと農家のうかなにがしつまなりしが、嫉妬しつと慳貪けんどん惡念あくねんによつて夜行鬼やぎやうきとなり、出離しゆつりもしらざりしに、よみ給ふ普門品ふもんぼんこゑ結縁けちえんして、このほど仏菓ぶつくわを得たり。

※ 「慳貪けんどん」は、けちで欲深いこと。
※ 「出離しゆつり」は、仏語。迷いを脱するために仏門に入ること。
※ 「普門品ふもんぼん」は、観世音かんぜおん菩薩ぼさつ普門品ふもんぼん第二十五の略。観音経のこと。
※ 「結縁けちえん」は、仏語。仏・菩薩が世の人を救うために手をさしのべて縁を結ぶこと。
※ 「仏菓ぶつくわ」は、仏語。仏道修行の結果として得られる成仏じょうぶつという結果のこと。

これによつて、かく日夜にちや参詣さんけいせし。何卒なにとぞしか/\の一宇いちうたて給はれ。今日けふ布施ふせにとのたけつえおくといひすてうせぬ。しかるがゆへ、禅師ぜんじいま観音堂かんおんだうをたつる。そのつえいま宝蔵ほうざうにあり。禅師ぜんじあをぎて、地名ちめい大棚おほたなといふもふしぎの因縁いんえんなり。

※ 「一宇いちう」は、一棟の建物のこと。



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