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【古今名婦伝】小野小町
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小野小町
出羽の郡司が女とも、小野好實が猶子ともいふ。和歌は衣通姫の流れを汲で、其頃の歌仙なり。
あるとき内裏の 歌合 に大伴の黒主と番ひて、まかなくにの歌をよむ。黒主、暗に是を聞、我歌の及ばぬを嘆き、此歌 万葉の古歌なりといひて、万葉の双紙を出す。
※ 「|猶子《ゆうし」は、兄弟の子。甥、姪。
※ 「衣通姫」は、允恭 天皇の妃で、皇后 忍坂大中姫の妹。和歌三神の一として、玉津島神社(和歌山市)に祀られています。衣通は、美しさが衣を通して輝くという意味。
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生没年不詳(平安時代前期)
小町、面目を失ひしが、彼双紙を見るに、行もしどろに、墨つぎもたがひたれば、此双紙を洗ひて見度よしを帝に願ひ、お前にて洗ひければ、誠の歌出、小町が歌は古歌ならぬ誉顕れ、これを世に双紙洗といふ。
まかなくに 何を種とて 浮草の
浪のうね/\ おひ茂るらん
◇
『古今名婦伝』に書かれているエピソードは、『草子洗小町』という能の演目で、小野小町と 大伴黒主 が 歌合 をする話です。
ストーリーを見てみましょう。📖
歌合の前日、小町の屋敷に忍び込んだ黒主は、小町の歌を盗み聞きます。
まかなくに 何を種とて 浮草の
浪のうね/\ おひ茂るらん
それを聞いて勝ち目がないと感じた黒主は、ある策を思いつき、それに似せた歌を万葉の草紙に書き込みました。
まかなくに 何を種とて 瓜蔓の
畠のうねを まろびころび歩むらむ
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そして、歌合 当日。
小町の歌が読み上げられると、黒主は「その歌は万葉の古歌だ」と声を上げて訴え出ました。さらに、その証拠として万葉の草紙を取り出して、帝の前に差し出します。
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盗作者の汚名を着せられた小町。人々の冷たい視線をうけ、心を痛めながらも草紙をよく見ると、その歌の箇所だけ行の整えや墨色が不自然であることに気がつきます。
これは黒主の陰謀にちがいないと察した小町は、草紙を水で洗いたいと願い出ます。
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小町が水盤で草紙を濯ぐと、書き加えられた歌が流れ落ち、入筆(後から加筆されたもの)であったことが明らかになります。
企みが露呈した黒主は自害しようとしますが、小町は歌道への熱心さゆえのことと許し、帝もまたお許しになられて円満に収まります。そして、周りから勧められた小町が祝いの舞を奏して終わります。
〽
日影に見ゆる松は千代まで
松は千代まで
四海の波も四方の国々も
民の戸ざしもさゝぬ御代こそ
尭舜の嘉例なれ
大和歌の起りは
荒金の土にして 素盞鳴尊の守り給へる
神国なれば
花の都の春ものどかに/\
和歌の道こそめでたけれ
◇
謡曲や歌舞伎で
悪役として描かれる大伴黒主です。
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◇
小町といえば、やはりこの歌ですね。
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花の色は うつりにけりな いたづらに
わが身よにふる ながめせしまに
筆者注 新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖