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【観音霊験記 秩父巡礼】第七番牛伏青苔山法長寺/花薗左衛門督長臣某

出典:国立国会図書館デジタルコレクション
観音霊験記 秩父巡礼第七番牛伏青苔山法長寺 花薗左衛門督長臣某

観音霊験記 秩父順禮ちゝぶじゆんれい 第七番牛伏うしぶし 青苔山せいたいざん法長寺ほうちやうじ

  六道ろくだうを かねてめぐりて おがむべし
    またのちのを きくも牛伏うしぶし

奉額
  つみの たねやこぼれて 蛇いちご

花薗はなその左衛門さゑもんのとくの長臣ちやうしん  なにがし
𣴎平じやうへいころ當郡たうぐん 末野すゑのがう 花薗はなぞの城主じやうしゆ  なにがし 左衛門督さゑもんのじやう長臣ちやうしん  なにがし  は、放逸はういつ邪悪じやあくものなりしが、相馬さうま将門まさかど謀逆ばうぎやくくみして、天慶てんけい三年、官軍くわんぐんせめられて山林さんりんにしのびしが、つひす。こゝに、一僧いつそう 當寺たうじ観音くわんおんたづさへて そのほとり兵乱へうらんさけたるがゆへ、長臣ちやうしんの  なきがら [■は骨+盍] をうづむ。

※ 「𣴎平じやうへい」は、承平じょうへい。平安時代前期、朱雀天皇の御代の年号。

其後そのゝち平穏おだやかになりて、にげさり土民どみんみな/\住家すみかかへるがゆへ、かの長臣ちやうしん妻子さいし縁家えんかかへりて おつと行衛ゆくゑさがせしに、かのそうしゝたることをかたればことにかなしみ、そのつか時々とき/\まうでけるうち、縁家えんかうしこうしうみぬ。

このこうしこの 妻子さいししたふがゆへ、一日あるひかのつか牽連ひきつれしに、つかまへひざまづきて なみだを流し人語じんごをもつて
われなんぢおつとなり。悪心あくしんむくひによつてかゝる牛となれり。何卒なにとぞ妻子さいしともに出家しゆつけとなりて、この観音くわんおん供養くやうせば、かなら得脱とくだつせん」
といふより、すぐせり。

※ 「得脱とくだつ」は、仏語。生死の苦界から脱して悟りの境地に向かうこと。

これによつて、かの妻子さいし 即座そくざかみをおろしてあまとなり、おつと悪報あくほう観音くわんおんいのりしかば、つひ畜生ちくしやうてんじて聖衆じやうしううまれしはふしぎの灵験れいげんなり。

※ 「聖衆じやうしう」は、極楽浄土の諸菩薩のこと 。
※ 「灵験れいげん」は、霊験。



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