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意味怖#5 「不思議な砂時計」

毎日毎日、大変だ。
ずっと残業ばっかり…
たまには定時で帰りたいよ。
ほんとうにムシャクシャする。
俺は上司の机に書類を置いて、帰ろうとしたが… ガシャン!!と大きな音が響く。下を見ると花瓶が割れていた。
まずい。これは上司が大切にしていた高価なものだった気がする。
急いで元の形にし、逃げるように会社から出た。そして帰り道、レジャーシートの上に座っている爺さんが手招きしているのを見たのでそこへ行ってみると、爺さんはそばに置いてあった砂時計を持ち上げる。
「これは世にも不思議な砂時計なんじゃよ。ほれ、それを貸してみな…」
そう言うと爺さんは俺のスマホを奪うと力を入れて割ってしまった。
「何してんだよ!!」
爺さんは少しも動揺せずに砂時計をひっくり返す。そうすると、なんと割られたスマホが元の状態に戻ったのだ。
「これはお前さんの悩みによく合うはずだよ。ただし、3回しか使えん。ほれ、お代は要らん」
爺さんは俺に砂時計を渡す。なんだか知らんが、凄そうな代物だ。
翌朝、一番に出勤して花瓶を元に戻そうと上司の机の上で砂時計をひっくり返す。すると、花瓶のヒビはパキパキと音を立て元に戻ったのだ。
「おい、何をしているんだ?」
上司の声にビクッとしたが、すぐに体制を正した。
「あ、あの昨日の書類を出し忘れていたので、出しておいたところです」
「はぁ。あのな、書類はもういらなくなった」
「え?」
「別の社員が丁寧に仕上げてくれたんだよ。だからせっかくやってくれたが、これは必要ないんだ」
「…そんな」
「それと、他の奴らはもう先に出勤している。今出勤してきたって遅いんだ。分かったな?」
「は、はいっ」
あーーなんだよ。許さねぇ。だったら残業させんじゃねーよクソ野郎!
俺はそう思いながら気晴らしにロッカーを思いっきり蹴ってやった。ロッカーの扉が凹み、外れてくる。そこで俺は砂時計をひっくり返した。もちろん、ロッカーは元に戻った。残り使えるのはあと1回…。大事にしなければ。
そして夜。また上司に叱られた。もう、地獄に落としてやる。殺してやる。
…そうか、この砂時計を利用しよう!殺しても元に戻せば殺人じゃないはずだ。
そう決めた俺は帰り道、上司の後をついて行くことにした。
「おい!」
「…何だ?って、田中くんじゃないか。上司に向かってなんだ、その口の利き方は?」
「どうでもいいだろ、そんな事!毎日毎日鬱陶しいんだよクソ上司!!」
俺は勢いよくカッターを上司に何回も刺した。上司は大量に出血し、バタンとその場に倒れ込む。各自に死んだな。
「ノルマ達成!やったぜ、クソ野郎めが!」
もうその時の喜びは計り知れない。しばらく上司の死体を見つめたあと、すぐに砂時計をひっくり返した。



【解説】
砂時計の使用回数は3回とお爺さんは言っていた。お爺さんは最初に語り手のスマホを直し、そのあとに語り手が花瓶とロッカーを直した。ここで既に3回使ってしまっているのだ。つまり、殺した上司はもう戻らない。


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