見出し画像

La Poesía de una Joya〜裏イザヨイ戦争の後に


はなまるさんの「裏イザヨイ戦争」はこちら → 裏イザヨイ島戦争


 約束をしていた黒猫は、その粉々になった宝石を新しくして届けたそうです。
それはそれは貴重な宝石も使われたそうですが、どこに届けられたかは、その黒猫しか知らないということでした。
 きっと綺麗に加工されて、もう元はどんなものだったかわからないでしょうね。
でもね、そんな貴重なものがこの世界のどこかには絶対あると思ったら、毎日が少しは楽しくなる気がするんです。


 「君は多分、時々来てくれていた子だね?」
 ソラが来た雰囲気がして玄関の扉を開けてみたのだが、そこには小さな青猫だけがいた。ちょこんと座った青猫はポタンと1つ尻尾を振りニャーと鳴いたので、多分そうなのだろう。
 そっと両手を差し出すと無邪気に腕に飛び乗って来る。その雰囲気は今までとちょっと違い、ソラがこうして連れて来たのなら、何かが始まって終わったのだろうとジャンニは理解したのだった。
 前の子と同じようでそうではないような青いお嬢さんを抱き、頭にキスをする。
「お帰り。よく頑張って来たね」
いらっしゃいではないと思い、そう声をかけた。

 翌朝、青猫は青い豊かな髪を持つオッドアイの女の子になっていた。
 前見かけた時からうっすらとは思っていたのだが、ソラの連れてくる子はやはり人化するらしい。
「君の名前を教えてくれるかい?」
聞くと女の子はちょっと首を捻る。笑いかけられたと思ったのか、ニパッと笑顔を作った。見た目は小学校低学年くらいではあるのだが、どうもそこまで色々できるわけではなさそうだ。
 …名前…そんなにセンスはないのだが、自分でつけるしかないのだろうか…
それでも自分なりに良さそうな言葉をいくつか考えながら朝食の用意をしていると、唐突に後ろから声が聞こえた。
「ラソ!」
食卓に座り、足をバタバタさせながら、その足に言っているようだ。
 趣味で外国語をいくつか勉強しているジャンニではあったが、足がラソである言語は知らない。
…と思った時、ああもしかしてと気づいた。
Lazoかな?
スペイン語で絆や友情を表す言葉だ。ソラがつけそうな名前である気がする。
「ラソ?」
声をかけると輝かんばかりに笑う。テーブルからポンと飛び降り、ジャンニの足に抱きついた。
「なるほど、君の名前はラソか」
抱き上げて話しかけていると、ギャーッという叫び声に近い声が居間のドア辺りでする。ラソもびっくりして振り返るそこには身支度を整えたイネスがいた。
「おはようイネス。朝から元気だね」
とのジャンニの挨拶も、どこからともなく現れたユオが飛びつくのも華麗にスルーし、イネスは抱き上げられたラソの元に駆け寄った。
「どうしたのこの子!私が待ちに待ってた女の子じゃない!!」
多分その言葉しか話せないのだろう、
「ラソ!」
と言う笑顔にイネスが怒涛のように話しかける。
「ラソちゃんって言うのね?私はイネス。ああ何て綺麗なオッドアイなのかしら!髪の毛も柔らかくてふさふさで、ツインテールがとっても似合ってる!そうだわ、今日はお出かけしましょう!2人でお姫様の会をしなきゃ!」
 お姫様の会などという謎の単語が出てきて、明らかにお姫様ではないジャンニとユオとソル、それに頭の上に実はいたシナは目を合わせる。
 とりあえず我々ではないんだなという確認をし合うと、イネスとラソが出かけるらしいことだけは理解し、少し急いで朝食の準備をした。

 お姫様の会とは、今までイネス1人で開催していた、可愛い店や綺麗なところを順番に周り記念に何か1つ買って帰る会だ。
 人型のものは動物になると言うイネス的常識のため、女の子が青猫になっても特に疑問には思わない。イネスはとっておきのカゴにレースがついたフワフワのタオルハンカチを詰めると、そこにラソを入れた。
「やっぱり女の子ね。レースがとっても似合うわ」
ホクホクして言うと、自分はお出かけ用ポシェットを持ち早速街に繰り出した。
 今日の最初の予定は、マカロンの店に行ってラッピングが可愛い3個セットを買うことだ。それを花が綺麗な公園へ持って行き、家で淹れたロイヤルミルクティと一緒に食べる。
 それから、昔は王家御用達だったと言う洋服店に行ってウインドウショッピングをし、エリブルフラワーを使った料理を作る店でランチをし、最後に雑貨屋さんに行き今日の記念のものをお揃いで買って帰る。
 いつもより少し贅沢なお姫様の会だが、初めての女の子が来た日だ。このくらい何てことはない。

 マカロンを買い公園へ行くと、一番花壇が綺麗に見えるベンチがちょうど空いている。そこにレースのハンカチを2枚敷くと、一枚に自分が座り、もう一枚にラソを置いた。マカロンを見せるとちょっと香りを嗅ぎ、女の子の姿になると両手で持つ。
「そうね、確かに猫の姿でこれは食べにくいわ」
ラソは一口食べるとぱあっと笑顔になり、イネスの方を見た。
「マカロンっていうのよ。材料が高くて作るのがすごく難しいの。でも可愛くて美味しいでしょ?」
ポシェットからリボンで縁取られたタオルハンカチを出すと、ラソの口についたカケラを払うように拭き取る。
「これはハンカチ。汚れた物を今みたいに拭き取るのよ」
残りのマカロンを手に持ったまま、ラソはイネスの手のハンカチをジッと見た。食べ終わった時ハンカチを渡すとイネスがやったように口を拭く。片手を拭いてあげると、もう片手を自分で拭いた。
「もう、なんて賢いの!もしかして天才なのかしら」
天才という言葉はわからないだろうが、褒められていることはわかるらしい。手の後にそんなに汚れていない服も拭き、ついでにイネスも拭いてくれるとニコッとする。
 可愛い!
の言葉がイネスの頭の中を何千個も行き交う。
拭くところがなくなったのだろうか。ハンカチを見つめたまま止まってしまったので、そのハンカチを受け取ってポシェットにしまい、次の予定に向かった。

 ジュースのストローの使い方、店では色々な物を触らないこと、人型で歩く時は手を繋ぐこと、乗り物の前には飛び出さないこと。1日でたくさんのことができるようになったラソの手を引き、最後の雑貨屋さんに行く。
 もうラソは勝手に店に入らないし、店のものも無闇に触ったりしない。安心して2人で店内を回っていると、色々なリボンが置いてある場所に来た。
 はっ!この紫はラソの毛色にも髪色にも合うんじゃないかしら?!
姫センサーとでもいうべきものが働いたイネスはリボンが巻いてあるロールから少し引き出し、ラソの髪に当ててみた。
 やっぱりピッタリだわ。
自分の眼力に満足しながら、イネスはラソに話しかけた。
「今日の記念はこのリボンにしましょうね」
目を合わせて微笑み合うと、お揃いのリボンを買って家に帰った。

 お姫様の会が終わり家に帰ると、夕飯の支度をしているジャンニが台所に立っていた。シチューらしきものを煮込んでいて、花の形に飾り切りされたニンジンがシンクに置いてある。机には花が飾ってあり、特別な日にしか出さないランチョンマットと、いつかイネスが買って来た、立体的な花と蝶々がついているお皿が出ていた。
 ユオとソルとシナは何となく居心地が悪そうだが、それは仕方ない。女の子は皆お姫様なのだ。時々お姫様に戻らないとそのことを忘れてしまう。せっかく女の子に生まれたのにもったいないわとイネスは思う。
「気がきくわね、ジャンニ」
イネスの満足そうな顔に微笑んだジャンニが尋ねた。
「お姫様の会の締めも必要かなと思ってね。何か良いものはあったかい?」
イネスはお土産マカロンと、今日買ったリボンを見せる。
それを見たジャンニは、ちょっと待っててと手を洗った。
その手を拭いたジャンニはイネスとラソの元にやって来る。
 そして、イネスの髪の毛を編み込みにしラソの髪をポニーテールにし、買って来たリボンをそれぞれにキュッと結んでくれたのだった。


リッサちゃん
イネスの妹分ラソちゃん〜リッサちゃんその後
お揃いリボン✨

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?