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第十二話

 弥幸のバイトが休みの日、2人で部屋の片付けと掃除をしていた星陽は、見たことのない小冊子が雑誌の中に紛れているのを発見した。
 見ると結婚式場の冊子で、
 え。もしかして弥幸、もうこんなこと考えてんの?まったく、気が早えーなあ。
とニコニコでページを繰っていると背後から声が聞こえた。
「お前!それどこに?!」
言うなり、背中越しに冊子を取り上げた。
「何だよ、照れんなよ。俺にも相談してくれればいいのによー」
振り返って弥幸を見上げながら言うと、
「…やっ、違う…いや違わないけど違う!」
と真っ赤になっている。
 この厳つさで可愛いーんだよな。
横顔を見て、ん?と思った。
 星陽からしっかり見える背表紙の写真の横顔と真っ赤になっている横顔、顔のタトゥーがないだけで同じではないか。
 そう思ってじっくり見比べ、満を持して星陽は言った。
「…この正統派イケメンの新郎、お前?」
「もういいだろ!」
さらに赤くなり、見たこともないほど動揺している。
「ちょ待って!お前、顔のタトゥー消して服と髪ちゃんとすっとこれになんの?!」
 芸能人じゃん!
前モデルみたいだと思ったが、本当にモデルをしているとは思っていなかった。
「そこの結婚式場の専属モデルやってんだよ。新婦役がハーフで結構背が高くて、それとバランスが良い背丈の人間がなかなかいないって」
 はあ、なるほどと冊子をもう一回見る。
結婚式は女性が主役なのだろう。新婦役はたくさんのドレスを着ているが、新郎役の服はその半分くらいの種類で、写真の撮り方も新婦役を引き立てる絵面になっている。
 しかも。
「お前、こうすると和装もいけるんだな」
正月にあれだけ襲名式だったのに、さすがプロのスタイリストとメイクだ。

 時給がいいので高校の頃からずっと続けているが、これ誰だよと一度満月に大ウケしてからは現在進行形の黒歴史だ。
 自分でも思う。メイクでタトゥーを消され髪を整えられ、タキシードや袴を着た自分はコスプレイヤーのようで滑稽だし、こいつ誰だよといつも思っている。
 正直、写真も苦手なのだ。
だからこの結婚式場があるホテル自体のモデルは、何度も頼まれたがしたことがない。ホームページを開けたら街の夜景を背景にしてワインを傾けている自分の写真が出てくるなんて、地獄すぎる。
 今までは出来上がったものを渡されてもホテルにそっと戻して帰っていたのだが、星陽とのこともあり、今回は持って帰って式場のことなど一通り目を通してみた。どこかでホテルに戻しておこうと思っていたのに、星陽の漫画雑誌の中に紛れていたのか忘れていた。
「はー。お前やっぱりスッゲーかっけーな」
絶対笑われるだろうと思っていたが、星陽はしきりに感心し、背表紙と弥幸を繰り返し見ている。
「ちょっと見せて」
なので、そう言われた時にも素直に渡してしまった。
メガネをかけたり外したりしてまで詳細に見ていた星陽だったが、ちょっとすると少し不機嫌そうに弥幸を見上げた。
「…なんか悔しいな。こんなかっけーお前をホテルの人達は知ってんのに俺は知らねーのか。それに何だよこの女。俺の弥幸に抱きついたりキスしたりしやがって。俺より先に弥幸に指輪もらったり一緒に祭壇に立ったりしてんじゃねえぞ」
 高校の頃からだから、新婦役の女性とはもう何百回も祭壇に立っている。だがこの人はおそらく5歳以上年上で、結婚して子どももいるはずだ。あとハグはしているが、キスはそう見える角度で写真を撮っているだけでしていない。
反論はいくつかあったが、それを覆い隠し頭を支配する言葉がある。
 俺を萌え死にさせるつもりか!!!
もう片付けとか良くないか?というか無理だわ。
 理性が切れた。
キスをしながら押し倒すとギュッと抱きついて来る。
自分を説得するように、弥幸に言い聞かすように繰り返した。
「お前は俺のもん。俺のもんだからな」

 片付けどころか夕飯も食べず翌日の朝を迎えてしまった2人だったが、次の日に持ち越された片付けと掃除は無事に予定通り終わった。持ち越された片付け中に、誕生日にもらったBKD新作を見つけた星陽が特に攻受反転以降をじっくり読んでいたというのは、また別の話である。

いろんな本を見つけた星陽くん

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第十三話〜弥幸✖️星陽

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