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⑦ イバン

年齢:28歳
性別:女性
身長:176cm
所属:ヴァサラ軍無所属
武器:大戦斧
極み:極みや超神術などといった能力があるか現在不明
その他:同性愛者

戦闘スタイル
 大きな斧を使って戦う。一撃に力を込めた攻撃パターンが多く、相手の隙を突いて斧を振りかざす。複数人数がいる場合は斧を振り回し薙ぎ倒したり、上空から斧を地面に叩きつけてその威力で吹き飛ばす。
 投げ技や頭突きが得意。斧と体術を駆使して戦う。

容姿
 灰色の髪を一本に束ね、蛇の剥製を巻きつけている。パッと見は三つ編みのように見える。瞳の色は琥珀色で、蛇のような鋭い目付きをしている。小綺麗な軍人のような服装をしており、私服(和装)の時は、髪を下ろしている。左上腕部に蛇のタトゥーがある。
 声もかなり低く、男性に間違われる事が非常に多い。よく目が笑ってないと言われる。石頭(物理)。

 ヴァサラ軍には比較的最近入った新参者。遊郭・鳳仙花の楼主と繋がりがあるらしい。
 紳士的な印象を受ける人物。実際は損得勘定で動く節があり、かなり打算的な性格。丁寧な口調で辛辣な事を言う。
 自身の敵や裏切り者はしばらく泳がせておくタイプ。その様子を見て楽しんでいる。
 最高潮に昂ると異国の言葉で笑い出す。
 頭は切れるが生活能力が乏しく、家事全般が一切出来ない。絵心も壊滅的。大食い。

(@カヲル‼️様



「私はいないと思います。
居るならば争いを望む神か、人間の世界に干渉せず天から見下ろす神のみ。ですが…それは最早"神"ではありません。過激な言い方かもしれませんが…信仰は無意味です。貴殿の前でこんな事を言ってはいけませんね。忘れて下さい」

 パンとぶつけられた言葉は、いつも思っていたことを的確に表現してくれていた。自分では口にできないことが形になったのを聞き、ジャンニは少し楽になるような、胸がすくような感じがした。

 ヴァサラ軍の裏には身元が分からなかったり引き取り手がいなかったりした者の合祀の墓がある。知り合いが入っている隊員が来ることも多いのだろう。花や食べ物、お菓子やお酒などが周りを飾るように備えてある。ジャンニはそこに週一回以上は行くことにしていた。
 ここに来るのは祈りを捧げるためもあるが、そういったものが腐ったり動物に荒らされたりしないように処理するためもある。これは宗教に関する資格がある隊員が自主的に行っていることだ。

 そこに、見知らぬ隊員が立っていた。
 ジャンニもだんだん古参隊員の部類に入ってきたし、職種的に人よりたくさんの隊員に会っている。仕事の一貫として隊舎周りをぶらつくことも多いので、全く覚えがない隊員は珍しかった。
 不審者だとは思わなかった。何かしようとする人間はそんなところにじっと立っていたりはしない。きっと知り合いでも入っているのだろうと、その男性が立ち去るのを目立たない場所で待っていた。

 もしかしたら新しい隊員かもしれないな。
 最初は三つ編みかと思ったが、灰色の髪に蛇の剥製を巻きつけているのは特徴的で、何より男性は目を引くほどに整った容姿だった。小綺麗な軍人のような服装をしているのもヴァサラ軍内では珍しいし、一度でも見かければ必ず印象に残るはずだ。

 男性が踵を返した瞬間、目が合った。会釈にしては折り目正しく頭を下げた男性は、自分がいた場所を案内するように手で示し言った。
「これは申し訳ない。どうぞ、お待たせしました」
 耳に障らない低めの声は男性のようでもあったが、響きの余韻から女性なのではないかと感じる。
 随分あっさりとした言い方は不自然にも思えるほどで、挨拶だけして終わっても良かったが、もう少し話をしてみたくなった。
「知り合いでも入られているのですか?」
 ちょっと不思議そうな顔をしてから、女性は納得したようにちょっと頷いた。
「なるほど。ここは確かにそういう場所ですね。しかし人が死ぬというのはそれだけのことです。ここに拝みに来るという行為は理解できる。しかし私はそういったことはしません」

 ロザリオをかけた人間に臆面もなくそう言う相手を面白いと思い、そしてちょっと嬉しかった。牧師であるという表面的なものを越え、ジャンニ自身に話しかけてくれているような気がしたのだ。
 だから問いかけてみた。
「あなたは神はいないとお思いですか?」
すると、冒頭の返答が返ってきた。

 私もそう思っていますと答えたかった。そしてもっと話したかった。
 しかし女性は
「初対面の方に話しすぎましたね。失礼しました」
そう言うときっちりと頭を下げ、では、と姿勢よく歩き去ってゆく。
 その後ろ姿に急いで声をかけた。
「私は八番隊でカウンセラーをしているジョバンニと言うものです。あなたは?」
 しかし、聞こえなかったのだろうか。そのまま行ってしまった。
 ちょっと残念に思ったが、あの女性とはまた話ができるだろうと、そんな縁のようなものを感じた。


 遠征に出て数日、ジャンニは大変に不利な状況に立たされていた。
 今日は前線ではなく後方支援に出ていたのだが、軍の移動の補助を最後尾でしているだけのはずが、後方支援隊の一部と共に、身を隠す場所も高さがある場所もないところに残されてしまっている。

 最後尾がそれなりに危険だという意識はあったのだ。しかし戦闘には型がつき、あとは自分たちが引けば終わりだという油断で本隊から切り離されてしまった。
 向かい合っているのはおそらく遊軍だ。
 運んでいる物資も狙っているだろうし、ヴァサラ軍の一角を潰したという名誉も欲しいことだろう。
 山や森なら楽だったのだが、見渡す限り何もないここではゲリラ戦ができない。10人弱のこちらと50人強の向こうでは、人数差が単純に戦力差になりそうだった。

 …けど、見渡す限り何もない訳だ。
逆に言えば、自分の極みは効きやすい。
 向かって来る敵小隊の様子を確認しながら、側にいた隊員に声をかけた。
「今から足止めをします。伝令を送り、できるだけ遠くに逃げてください」
 実際問題どうかというのは置いておいて、隊長格副隊長格の極み持ちが1人いれば、1小隊くらいはどうにかなると一般隊員達は思っている。
 隊員は素直に頷いて背後の自部隊に声をかけに行き、部隊は物資と共に退却しだした。

「さて、どうにかなるかな」
と退却を確認しながら呟く。
 敵人数的に、極み技が長持ちしないことは予想できた。何度も重ねがけするのは効率が悪いので、一度で最大数削りたい。となると。
 できれば使いたくないが、スイッチングなしの戦闘モードに入った方が良いかも知れない。

 敵との大まかな距離が30mを切り、ロザリオを持つ。

「夢の極み。umbra noctis」

 舞い落ちる銀の粉が半透明の膜になり、左から右にサアッと広がる。
それと同タイミングで地を蹴った。
 ヒュッと風切り音がし、目の端の景色が帯状に霞む。
跳躍し先頭隊員に手をつくと、さらに宙高く飛んだ。
空中で姿勢を変える肩越しに兵を見下ろしながら呟く。

「私はロザリオに触れ戻ってくる。3分」

 最後の言葉が自分に溶け込んだ。
ふわりと酔ったように気持ちが良くなり、自然と笑みが溢れる。
瞬間
カチリと視野が切り替わり、眼下の兵達の動きがスローモーションになった。

 音がない。風が身を包む。空は高く雲が速い。
自分が透明になったように自重を感じず、体などない気がするほど思い通りに動けた。

 空中で体を捻ると、兵士たちが一様に自分を見上げているのが隅から隅まで見える。先頭数列は足止め中ほぼ2列。
縦横の人数から、その後ろは40人弱。おそらく全57人。
 兵士の塊は濃淡ある立体で、右は大きく濃く、中央から左端にかけてはグラデーションに薄く小さい。
 自分の右端から左端までの動きが見えた。

 了解、右から崩そう。

 足が届く最右端の兵士の、首付け根辺りを踏み落とす。
 地に降りると少しバラけていた兵隊が囲むように集まって来るが、もはや歩く速さで笑えてくる。
「遅っそいなあ」
 独りごちると漏れる笑みを噛み殺し、中央部に向け足の間をくぐり抜けた。
背後は味方同士ぶつかり合い、勝手に自爆している。

 ここまでおそらく数秒で、宙にいると思っていた人間が自分の目の前足元から現れたことに、目前の兵隊たちが対応できていない。
「Hola(こんにちは)」
そんな兵たちを見上げ満面の笑みで挨拶をすると、一気に足元を刈った。

 目の前がパッと明るく風が通ると楽しくなってくる。
 前後左右360度、全部が見えた。
 どこに何人いてどんな体勢でいるのか完全に感じ取れ、実際は見えていない背後まで俯瞰で見えている脳内処理がされている。

 先ほど右端で自爆した一団からの3人が背後1メートル、その後ろに2人。切り掛かろうとしている。
 目の前には間を詰めて来る10人弱。こちらは先頭1人が2メートル、すぐ後ろに3人、それに続いて3メートルほどの間に4人。

「あはは。なかなかタフだね」
背後に向けて声をかけた。
「でもそれだけだな」

 後方の刃が自分に届く直前に身を屈めて避け、前方3mを詰めつつ地面を蹴る。
目の前の兵隊の肩に片手をつき直後の兵隊の頭上を後方宙返りで抜けた。

 これで大体、集団の中央か。

 空中で半回転すると手元にあった兵隊の頭を掴んだ。
 倒立に近い姿勢から地に降りるついでに、体重を乗せて開脚回転をする。
 捻られた首についてきた体が回転しながら昏倒するのを避けて着地した。と共に、回転の勢いのままに目の前の壁を回し蹴りで消した。
 壁がなくなりまた一段と見晴らしが良くなる。

 後方20人弱、幻覚を見ている十数人。合わせて30人前後の駒.。

「Muy bien.(いいね)」

 声をあげて笑いたい。
まだしばらくやれそうじゃないか。

 幻覚側を背後にしてファイティングポーズをとった。

 Un , dos , tres…
 数えながら事務的に殴り飛ばす。
ゆっくり振り下ろされる刀を蹴り折り、避け、膝を潰す。
 足元に重なるものが本当に邪魔だ。
左端に進むため、2〜3人思いきり蹴り避ける。
「遅い。もっと一気に来い」
 刀を奪い、イラっとした気持ちの全力で目の前の人間を殴り薙いだ。

前方に何もない空間。
左端。

手がロザリオに触れた。

 と同時に、まるで刈り取られたように、幻覚側の最前列が綺麗に消える。
二列目を刈り取りつつある大戦斧がジャンニの足元にも届いたのでそれを飛び越えると、目の前に見覚えのある軍服姿が現れた。
 気づくと、あれだけいた兵隊は全て地に伏せている。
彼女がやったのだろう。来たことに全然気づかなかった。

 広い空間にポツンと2人残され、周りを見渡しながらジャンニは聞いた。
「いつからここへ?」
「伝令の方とすぐに会える位置にいましたので、戦闘開始後2分くらいにはいたのではないでしょうか」
ジャンニは、はあっとため息をついた。
 じゃあしっかり見られてしまったわけだ。

「来た時に戦闘を行っているのが貴殿で正直驚きました。拝見する限り無情な戦いぶりで、牧師とも思えない」
 あの時と同じように、何も斟酌しない言葉を淡々と語る。
それのおかげだろうか。ジャンニも淡々と言った。
「結局これが私の本性なんですかね。みっともない所をお見せしました」
「本性ですか」
 その言葉を受けると、下ろした戦斧に少し体重を預けながら言った。
「人は正反対の物になら、なることができるものです。牧師のあなたも本性、冷酷なあなたも本性。そういうことではないですか」

 兵士と牧師は普通は並列できないものなのだろう。
戦闘を心から楽しみ、相手を潰すことに快感を覚える自分がいる。
こんなのは牧師にあるまじき事で、ジャンニは心から恥ずかしいと思う。
 しかし完全に無くすと不安定になる程に、これは自分の人格の一部だ

「以前お会いした時、本当は聞こえていました。失礼ながら信用できなかったため、名乗る気にはなれませんでしたが。八番隊所属のジョバンニさんということでしたね。私は軍師見習いのイバンと申します」
イバンは言った。
「なかなか面白いものを見せてもらいました。
 名乗っても良いと思うくらいには」

 ジャンニは、以前のイバンの言葉を思い出していた。
 私も神はいないと思います。
あの時は、はっきりと告げようと思った。
 けれど牧師という職業とは別の所で、やはり自分には神が軸として存在している。それは自分の物差しのようなもので、悔しいことに、おそらく一生捨て切れないだろう。

 では、イバンは。完全に無神論者である彼女は、何を物差しとして生きて行けているのだろうか。

「イバンさん。あなたは何を支えに自分の人生の判断を行いますか?」

 興味というより、そうできるイバンが羨ましいのだ。


→ ⑧ ウキグモ

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