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ヴァサラ幕間記〜小話1

その頃のカムイ様① 〜カムイ様と残務処理

 「解せん…」
 方向性が見えないインテリアの部屋で、もう何度呟いたかわからない言葉を呟きつつ、いくつ目かわからない袋の口をカムイは縛っていた。
 ヴァサラ軍の兵士を別の隊に編成し直す。これは良い。ヴァサラの執務室の重要書類や武器等道具を整理する。百歩譲ってこれも良い。
 しかしヴァサラの私室を片付けるというのはさすがに違うんじゃないか。
 しかも「私たちがしても良いのですが、きっとカムイ様自ら片付けられたいのではないかと思いまして」と気を遣ってくれてる風なだけに「いや全く」とも言いづらく、周囲の圧に負けて片付け続けている。

 ヴァサラが消えた時、勝手に噂が広まる前にと思い、先手を打ってあらゆる噂をこちらから流した。皆が信じたい噂が残り、それにいい感じに尾びれ背びれがつくだろうと思っていたら、恋愛系のものは速攻消え、逃亡系も消え、死亡系が残ったようだ。目下だんだん散り際が派手になりつつ広まっている。
 つまるところ部屋の片付けは遺品整理ということになり、原因の一端が自分にないことはない。だがカムイは思っている。

 いやあいつ、絶対どこかで何かしでかしてるだろ。

国を代表する軍人でもあるし王子でもあるカムイは人より忙しい。しかし部屋の片付けをする時間も何とか作れてしまうほど処理能力が高いのが今は仇となっていた。

 部屋の片隅には引越し業者ばりにきちんと荷物がまとめられている。紐で結ばれた紙類、パズルのように効率的かつ丁寧に詰められた箱の数々、要らなそうだと判断されたものは種類別にゴミ用の袋へ。そもそも生真面目できっちりした性格なのでいい加減に済ますことができないのだ。お世辞にも片付いているとは言えない部屋で、これでもかなり片付けが進んだと言えるだろう。
 部屋に備え付けの衣装だんすを開けると木の棒が大量に落ちて来た。
「うわ!覇王ソードこんなに要らんだろ。手頃な枝見つけたら拾う癖だなこれ」
言ってもただの木の棒なのでまとめて捨てるか薪にでもしようかと紐で縛ったが、捨てる物の方に置こうとして立ち止まり、考え中のエリアに置いた。そのエリアにあるのは将軍のマント、カサーベル、覇王ソード(仮)。そういえば百科事典をずっと貸したままだがあれはどこへ。

 何がどこに入れてあるのか規則性がないという、性格的に一番精神が削られる作業に毎日追われるカムイの表情は今まで見せたことがないほど疲弊しており、
「やはりヴァサラ将軍が亡くなった悲しみは深いらしい」と兵士たちの中で専らの噂になった。
 それがヴァサラ死亡説に拍車をかけているのを、カムイ自身は未だ知らない。

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