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第三十八話

先に読むべき、ロロたんめん様作、弥幸くんと睡陽ちゃんの前世話はこちら→「関係」



第三十八話

「星陽、股開きすぎだってば」
何度目かの千聖の注意を受け、星陽は座っている膝をしめる。
「ほら、星陽。さっさと並べて。睡陽の本は人気で、始まったらすぐ列できちゃうんだから」
慣れた動きでテキパキとブースを用意しているのは、セーラー服姿の九重だ。
 そう「セーラー服姿の」。
 なぜか今、九重のみならず星陽と千聖も女装させられた上、睡陽のコミケブースの手伝いをさせられている。
 睡陽もコスプレだ。ピンクの髪を三つ編み一本結びにし、顔の左右は緩く輪の形にした髪を大きな花飾りでとめている。額に花びら3枚のようにも見える模様が描かれているのと、着物のような服が特徴的だ。これは睡陽の一次創作キャラらしい。
 残り3人は、今回のオンリーイベント作品のキャラだ。グループアイドルが実は戦士で、アイドル活動により洗脳を試みようとする敵組織と戦う話らしいが、星陽も千聖もその話は全く知らない。
 ただ、おとなしい担当キャラの千聖は膝下スカート、賢い担当キャラの九重はセーラー服だが元気担当キャラの星陽はミニスカなので、ひたすら開脚角度を注意され続けているのだ。

 星陽が座っているのは、BKDの同人がしれっと並べられたブースの端の方だ。今回はブースを2つとったということで、今までの同人の中で人気があったものを増刷して平積みしてある。一番上が、千聖っぽいキャラがSM器具を色々つけてどうとかしている非常にアレな表紙だったのでササっと下に隠したら、自分っぽいキャラに耳と尻尾がついていて弥幸っぽいキャラに何だかんだしている表紙が出てきた。
 ホントにこれ、学内で人気なのかよ。
何回上下を入れ替えても碌なものが出て来ない。自分っぽいキャラが出ている同人を女装して売っているというこの状況がカオスすぎる。
「星陽、股」
もはや文章でもない、千聖の鋭い注意が飛んできた。
星陽は足が開かないように、椅子に突いていた両手を腿の下に敷いた。

 という状況を、まだ開場していない入り口がら眺めている怪しい3人がいた。
女装姿が見たかった弥幸と満月、メイク担当の叶芽である。
 満月は写真を撮ることに余念がない。
「天音から九重の写真撮って送ってくれってマジで何回もメール来て。…いや、やっぱ千聖、お嬢系の服似合うよな。姉ちゃんに着せ替え人形させられてた時以来だわ」
相変わらず、どこからともなく蝶々を飛ばしている叶芽が言う。
「原石だったなあ。素材が良かった。隠すメイクじゃなく生かすメイクができたからね。正義で練習した時より楽だったよ」
ちょっとだけ聞き逃せないワードがあった気もしたが、それよりも弥幸は目の前のブースと睡陽のコスプレを見ながら、じわじわと思い出して来ていた。

…オリキャラってか、コスプレ前世のスイヒだよな。
…そういやスイヒ、前世でもBL書いてたよ。
…俺、あいつのBL修正したことあったよな。
…あれ、確か誰かの秘部を修正し続けたことが…



サイズがまざまざと蘇り、背後に立つ叶芽のそこにチラリと目を落とす。


「おい、大丈夫か」
携帯から目を離した満月が弥幸を見ている。
今何か空白の瞬間があったが、その時から声をかけられていたらしい。
「悪い。なんかボーっとしてた」
何か考えていたと思うし、なんとなく嫌な後味もあるが全然思い出せない。
「ちょっと見せて」
弥幸のサングラスをずらした叶芽が下瞼の裏の色を見て、素早く脈をとった。
「貧血かな。ずっと立ってたからね。ちょっと座って休んで来たらいいよ」
というか、別にここに立っている必要は最初から全然ない。
貧血になどなったことはないが、言葉に甘え、開場するまで自動販売機の前で待つことにした。
コーヒーを買って、弥幸はぼんやり考える。
 今診察された時、別に嫌じゃなかったな。
 なぜか少し、親しみを感じる気も?
と思ったが、もやっとした何かがある気もする。
 …そうでもないか…。

 背後から、駆け寄る足音がした。
「弥幸!」
呼びかけた星陽は、弥幸が座るベンチに片膝をつきサングラスを取る。髪をかきあげジッと見てから、かきあげた髪を整えるように頭を撫でた。
「良かった。熱があったり、すごい具合悪いとかじゃなさそうだな」
ニッと笑う。
「休みに行ったって叶芽先輩に聞いたからさ。お前、普段そんなことないじゃん?よっぽど具合悪いんじゃないかと思って心配したよ」
コスプレの上に普段着ている上着を羽織り、鞄まで持って来ている。
「病院に連れて行かなきゃいけねーかなと思って用意して来たし」
「その格好で行くつもりだったのか?」
「着替えてる時間あったら病院行くだろ」
揺らがないなあと、ため息をつくように笑った弥幸は言った。
「癒させろ」
「よし、来い」
星陽が両手を広げたので抱きついた。膝を突いているので少し座高が高くなっている星陽に上半身全部を包まれながら、弥幸は色々なことを完全に忘れた。


セーラー服と九重くんbyロロたんめん様



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第三十九話〜弥幸✖️星陽、空知✖️愛和

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