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第十話

「あぁぁああー!弥幸だー!」
 荷物を置いた星陽は玄関を開けるなり、鍵を開けるために出て来た弥幸に抱きついた。さすがに1月4日から冬休み終わりの日までの数日間は実家に帰っていたのだが、その数日間が辛かった。やっと終わって弥幸に会える喜びはひとしおで、変な言葉が入っている普段着Tシャツなのが逆に可愛く見えてしまうくらいだ。
 実家の居心地は以前と変わらなかった。好きな物ばかり作ってくれたし、新しいゲームも買っておいてくれたし、家族は優しかった。けれど、前は夢中になっていたどんなことも心からは楽しめず、暇があれば弥幸のことばかり考えていた。家族が見ていないところでは四六時中携帯を眺め、弥幸から何か来ればすぐ返信し、弥幸から来たメッセージを何十回も読むことで側にいないのを我慢していたのだ。
「あぁもう嬉しくて泣きそう。お前いなくてすっげー寂しかった」
「ほんの数日だろ、大げさな」
抱きとめて背中をポンポンとした弥幸は、星陽が投げ出した荷物を持つと部屋に向かった。

 星陽が実家から持って来た映画を見ていると急激に眠くなって来た。背後から抱きしめる形で壁に寄りかかりながら座っているという、このベッド上の体勢のせいかもしれない。腕の中の星陽の体温が気持ち良いし、洗い立ての髪に顎を埋めているとやたらと落ち着く。
 そういやあんまり熟睡してなかったかもな。
 星陽がいない家はあまりにも白々と広かった。1人だと所在なくうまく寛ぐこともできず、毎日度数高めの酎ハイを買って飲んではそこら辺でごろ寝していたのだ。
 何のやる気も出なかった。
 バイトがあるから起きてシャワーも浴び出かけるが、詰めて仕事を入れてなければ飲んで寝てるだけで終わっていた数日は絶対にあったと思う。
 今日…なんか…すごい寝れそう…
と思う思考も途切れ途切れで、ついに耐えきれず寝入ってしまった。

 耳元で寝息が聞こえだした。
 だんだん体重がかけられて来てるなと思っていた星陽が体勢をあまり変えないように斜め後ろを見ると、弥幸の目はすっかり閉じられている。横顔に当たるように少し肩を動かしてみたのだが、全く目覚めそうな雰囲気はない。
 おい、寝落ちかよ。
送ったメッセージの返信もパラパラとしかなかったし、星陽がいない間、年末年始働いていなかった分たくさんバイトを入れていたのだと思う。寝落ちする姿など今まで見たこともなかったので、だいぶ疲れてるのかなと心配にもなる。
 けれども数日ぶりに会ったのだ。
今日は久しぶりにと期待していたこの体をどうしてくれよう。
 あー!でも寝ちまったもんは仕方ねーしよ。
ため息をつくと、そっと体を離しながら弥幸を壁に寄り掛からせる。
電気を消したらちょっとだけ起こして横にさせないといけないよなと算段して弥幸を見た時、無防備な姿にふとそそられてしまった。
 静かに近づくと、微かに開いている唇にキスをしてみる。
 お、全然起きねえ。
もう一度キスをし、今度は少し舌を差し入れた。がこれは歯に阻まれたので諦める。
 うーんと考えた星陽は、耳に息を吹きかけてみた。
するとそれを避ける方向に首を振ったので、ギクっとして身を引く。ドキドキしながら観察していたが目は覚めていないようだ。
 落ち着くまで数十秒待ち、また近づくと首筋にキスをしてみる。と、寝息に少し甘い息遣いが混じるではないか。
 うっわ…。
耳を甘噛みするとちょっと表情が変わり、微かながら声も聞こえた。
 ヤバい…押し倒したい…。
星陽の中で激しく葛藤するものがある。

このまま寝てるのをいいことに押し倒してしまおうか。だがただ起こすだけになってしまうかもしれない。でもすっごいエロい。超襲いたい。

 いや落ち着け俺。お前は数日ご無沙汰だったために冷静さを欠いている。
深呼吸をした星陽はその日は1人で処理することにしたのだが、以来、弥幸を抱くことを悶々と考え出した星陽がいるのは言うまでもない。

ベッドの上でこんな感じ

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第十一話〜弥幸✖️星陽

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