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ヴァサラ幕間記20


 パンテラと戦闘欲 

 あー。寝落ちしちゃってたー
 目覚めたパンテラは頭をかいた。
 壁とベットの足が作る角に寄りかかり、電気が煌々とつく部屋を眺める。ビールの空き缶や色々なアルコール類の瓶が床に散在していた。
 ベットの上にあるカートン買いしたタバコを引き寄せて床に落とし、ワインの瓶を取ろうと腕を伸ばした瞬間に痛みが走る。
 あの脳筋おじさん、今限りヤってくれたよねえ。
直後はまだはっきりとはわからなかった打撲位置も、痛みが収束して来た今はよくわかる。筋肉痛にも似た何とも言えない鈍痛が滲み出て、体は熱を持っていた。裸の上半身に色とりどりの打撲跡が鮮やかだ。
 瓶に残っていたワインをそのまま一気飲みすると、パンテラは呟いた。
「甘っま」
 タバコと絶妙に合わないことにイラッとして、空になった瓶を床に投げた。転がっている缶とぶつかり合い、派手な音をさせながら部屋の隅まで転がっていく。今吸ったので空になったタバコの箱も握り潰し、床に投げつけた。
 変な時間に目が覚めたのも、体が痛いのも、音がうるさいのも、電気が明るいのにもイライラする。
 そう強くはないにしろ思いっきりヤっても許されるはずの相手に、満足に動けない状態で戦わされた欲求不満が尾を引いていた。

 パンテラにおいては戦闘欲は本能に近いので、三大欲求に並ぶ位置にある。それは睡眠欲を凌駕することもあれば、食欲や性欲と置き換わることもある。
 そういう意味ではヴァサラ軍の環境は悪くはない。割とマメに挑んではいるが未だ全く勝てそうにないヴァサラ総督もいるし、一般隊員も練度は高い。十二神将に至っては本気で戦っても苦戦しそうな相手ばかりで、強い者は遍く愛するパンテラとしては、身近な所に好みの相手が両手に余るほどいる状態だ。
 だがここで問題なのは、自分もその十二神将の一人であるということだ。十二神将が少しずつ欠けて行く中での隊長同士の殺し合いがマズいことは、さすがのパンテラでもわかる。
 つまり、好みど真ん中の相手がこれだけ周りにいるにも関わらず、誰にも手を出せない状態なのである。いや、厳密には、出そうと思えば出せるのだ。だがそれを自分の意志一つで抑えているのだから、フラストレーションもストレスも溜まる一方だ。
 当初の目的だったわけでもない隊長職に、一応これだけ操を立てているのは誰かに評価されても良い。というか、ヴァサラ総督はマジで評価しろと思っている。

 こーんな傷、ラショウちゃんはとっくに治ってるんだろうなー。
腹貫かれても動けるなんて、ほーんとチートだよねー。
 今回の任務で一緒だった、いつでも嫌悪感と敵意剥き出しの同僚に思いを馳せた時、妖の極みを思い出した。
 腰の奥にできた熱い塊が背筋を伝い上がりゾクリとする。興奮で一気に頭が醒め、指先まで満たす熱を吐息と共に吐き出した。
「ヨかったなあ、ラショウちゃんが向けてくる極み★」
触りだけであんなに美味しいなら、実際ヤるとどれだけ気持ちいいんだろう。
 年がら年中、姿を見るだけで向けてくるラショウの殺気は
 うっわー、今日もラショウちゃんイイねえ。
とパンテラを興奮させる好物の一つである。
「わーかったよ。ラショウちゃんに免じて、ぼくちゃんもう少し我慢するよん♪」
と勝手にラショウに責任を押し付けたパンテラは、ちょっと機嫌が良くなった。
 ずるりとベッドに這い上がると、薄い朝日の中で布団をかぶる。
 ウチの隊に美味しそうなコ入って来ないかなー。いつかぼくちゃんを食べちゃうくらいになりそうなコと、毎日ヤれたら楽しいのに。
 そんなパーティの夢を描きながら、二度寝に入るのだった。

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