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Episode of vice captain ➕

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「いやあ、参りましたよ。来週末は孫が来る予定で、家内に家の掃除を手伝えと言われてたんですがね」
「任務的にも一週間で帰れるかわかれへんなあ」
ヴァサラ総督の部屋から出てきたなり、年嵩がありそうな2人はぼやき合った。
「まあ、確かにうちらはまだ国としては新しいさかい、因縁があるような国もないし、どちらの国とも利害関係はないし…」
「こっから遠いからね」
2人の後ろを歩いている青年がボソッと言う。背中に色々と背負っているが、どうもゴミのようにしか見えない。
「そう。老体に鞭打って調停役として行くにはいささか遠いんですよ」
白髪の男はマフラーの男をチラリと見た。
「…あなたは交渉の手腕もあるし、公平で冷静な判断も下せるのに…。気を悪くしたらチクチク嫌味を言い出す癖さえなければ…」
「…自分が行くことになったのはお前のせいとでも言いたげな目ぇやけどな、あんたさんは人生経験の豊富さを買われて行くんやろ。相手は人外さんでもあるようやし、さすがに俺1人ではキツいわ」
その言葉に、納得はしたものの承服はしかねるといった体で白髪の男が口をつぐむと、会話が途切れた隙を狙って青年が言った。

「あんたたちはともかくさ、俺は何なんだろーね。調停の交渉とか役立てる気がしないんだけど」
「あなたはほら…」
と振り返って言いかけた白髪の男は一瞬黙り、マフラーの男を見た。
「ねえ」
「そこで俺に振るんかいな」
言った男は
「…まあ、あれやろ。総督がメンバーに選んだからには何かあるんやろ」
一応会話は受けたが、適当な感じで無理やり収めた。

 青年は何か考えていた様子だったが、しばらくして言った。
「交渉の時のBGM担当?」

「…そういう役目がいる時もあるかもしれんわ」
マフラーの男の言葉に
「そんな役目、聞いたこともありませんよ」
白髪の男は速攻言ったが
「そっか…いくつか曲練習しとくか。あ、楽器持ってくの忘れないようにしよ」
やりとりが聞こえなかったのか、青年はまんざらでもない様子で曲のチョイスを始めた。



 ウキグモはハナヨイに誘われ、例の飲み屋に来ていた。
今日はカウンターのいつもの席で並んで座っているが、ハナヨイはお猪口片手に、端で宿題をしている店の息子をぼんやりと眺めている。

 何も話さずただ一緒に飲むという時もあるので、これはこれで構わない。
だが今日はわざわざ仕事中に誘って来たくらいなので、話したいことがあるはずなのだ。
 言い出しにくい案件なのかと声をかけようとした時、ハナヨイが独り言のように呟いた。
「…だよなあ、やっぱり」
そして、こちらを見た。
「…ついに俺の感覚もバカになっちまったかと思ってさ。ちょっと確認したかったんだよ。付き合ってもらって悪ぃ」
「この子がどうかしたのか?」
ハナヨイが人形と言った息子も、ウキグモには以前と変わりなく見えていた。なので今回も何かあるのかと思って聞いてみたのだが。
「ん?…ああ、この子は関係ない。問題ねぇよ」
ハナヨイは、自分の猪口に酒を注ぐついでにウキグモの猪口にも注いだ。
なみなみと入った酒を一口で飲むと、空の猪口を机に置きながら言う。
「ただ、ちょいと気になることがあってね。付き合いついでに一緒に来てもらってもいいかい?」

真剣味を帯びた声だった。



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