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(`∧´)が運動事象知覚の手がかりとなる

(第1著者の代理で投稿します)

皆さん,顔文字はご存知ですか?そう,(^^)や( ゜д゜)のように,文字や数字,記号を用いて表情や感情を表現したものです。私も某青い鳥のSNS上などで使いますが,文章全体が柔らかくポップな雰囲気になるのでけっこう好きです。
今回ご紹介するのは,顔文字を一緒に出すことで運動事象に対する解釈が変わることを解明した論文です。

Gobara, A., Yoshimura, N., & Yamada, Y. (2018). Arousing emoticons edit stream/bounce perception of objects moving past each other. Scientific Reports, 8:5752. (リンク)

世の中には,物理的には一種類の運動でしかないのに二通りの見え方が存在する,そんな不思議な運動事象があります。その一つが,交差・反発知覚です (イリュージョンフォーラムさんのデモ)。このデモを見て,読者の皆さんは2つの円がどのように見えましたか?ある人は円が中央で重なった後,そのまま対極へ動き続けているように見えたかもしれません。あるいは,円が中央でぶつかり,跳ね返っていったように見えたかもしれません。前者が交差知覚,後者が反発知覚と呼ばれます。交差・反発知覚は人によって,あるいはその時その時で解釈が変わるユニークな運動事象なのです!ちなみに,このように「どちらにも見えうる」運動事象のことを,bistable motionと呼びます。

交差・反発知覚は,円が重なるときに衝突音を一緒に呈示することで反発に見えやすくなることが知られています。また,実際に音を聞くことは必須ではなく,衝突音をイメージするだけでもこの効果は起こります。つまり,物理的な衝突音を手がかりとして,円がぶつかっていると解釈しやすくなるわけです。

ここで,「衝突」という言葉について考えてみましょう。「この時期の監督交代に賛成か反対かで,友達と衝突しちゃったよ」のように,この言葉はしばしば心理的に他の人とぶつかる様子を表します。そして他の人と心理的に衝突するとき,多くの人は怒りのようなネガティブな感情を抱くのではないでしょうか。そうだとすると,怒りに関する情報が衝突のイメージを引き起こし,それにより交差・反発知覚の解釈の手がかりとなるかもしれません!

今回の研究では,感情に関連した刺激として顔文字を採用しました。そして,交差・反発知覚に顔文字を一緒に出すことで,顔文字の表す感情の種類によって反発に見える割合が変わるかを調べました。怒り顔 (`∧´),真顔 (°_°),笑顔 (^_^) を表す顔文字を,円が動いているときに一緒に表示しました。そして2つの円が交差して見えるか,反発して見えるかを実験参加者に尋ねたところ,怒り顔を一緒に出したときに反発に見える割合が増加しました。つまり,(`∧´) が運動事象の解釈の手がかりとして利用されたのです!

さらに実験を行った結果,顔文字の覚醒度 (どのくらいドキドキするか) の高い顔文字でも同様の効果がありましたが,感情価 (ポジティブかネガティブか) の違いは影響していないことが分かりました。このことから,特に顔文字から生じるドキドキしたイメージが交差・反発知覚への解釈に利用されると考えられます。他にもいくつか実験を行っていますので,気になる方はぜひ本文をご覧ください。

ところで,欧米では :D のように横向きの顔文字が使われます。このような顔文字を使ったときも,今回の研究と同じような効果が生じるのでしょうか?それとも,日頃から横向きの顔文字に親しんでいる欧米の人々では生じないのでしょうか?このような文化的な視点からの研究も,今後していけたらと思っています。

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