うんこ

汚されてしまった私っぽい何か

久々に論文が出ました。超かいつまんで言うと,自分の身体の一部だと錯覚的に思っている物体にうん◯をなすり付けたら気持ち悪くなる研究です。こういうアホ研究が好きなんです。でも一応Psychonomic Societyのジャーナルなんスって。

Nitta, H., Tomita, H., Zhang, Y., Zhou, X., & Yamada, Y. (2018). Disgust and the rubber hand illusion: A registered replication report of Jalal, Krishnakumar, and Ramachandran (2015). Cognitive Research: Principles and Implications, 3:15. (オープンアクセスです)

少しだけ詳しくすると,ラバーハンド錯覚が生じている間だけ,ゴムの手に各種汚物を置いた場合に嫌悪感がハネ上がるという現象が日本人でも起きることを確認しました。何のためにそんなことすんの?と思われますが,これが使えると,強迫神経症への介入の際などに実際に身体を汚すことなく触れることができるのでメリットがあります。また嫌悪感の認知メカニズムにも迫れるので嬉しいのです。

一応ラバーハンド錯覚に関して簡単に説明です。写真のように,自分の手をついたてで隠し,ゴムの手の模型だけが見えるように置きます。そして自分の手とゴムの手を2つの刷毛でシンクロさせてサッササッサなでると,だんだんゴムの手の方が自分の手のように感じてきます。つまり身体意識の移動が起きます。今回の結果は,自分が汚されたと感じる領域が実際の身体を超えて,身体意識の宿った物体にまで拡張されることを示したことになります。嫌悪感が自身の汚染回避・防衛の機能であることを考えると,本当は無関係なはずの物体までわざわざ汚染から守ろうとしているのです。あるんですね,こういうことって(稲川風)


今回の研究は以下の2点で私にとって意義深いものでした。

1. 修士1年生の授業成果であること。大学院の某授業でやってるプロジェクトでした。んで特に筆頭著者の新田博司さんの頑張りは尋常ではないものでした。本来彼は発達心理学を専門としていて,今回の研究は完全にサブでした。それでもM1の時点でこれだけの大作論文の大半を書き上げて過酷な査読を2回(後述)もクリアしたのも素晴らしかったのですが,さらに実験の遂行は超人的なものでした。ラバーハンド錯覚の実験1つに参加者133人という時点で常軌を逸してるんですが,さらに先行研究と参加者属性を揃えつつ人を集め(これが意外と面倒・・・),実験のたびに毎回うん◯やゲ◯を製作し(長持ちしないので),リアリティを上げるために放屁ガスを撒き散らして自分もダメージ受けつつ,嫌悪顔されながら実験やってました。データ取るのに1年くらいかかったと思います。普段は箱崎に通ってるのにメイン実験場が伊都キャンパスってのがなかなかの阻害要因でもあったぽい。最寄り駅から徒歩55分だからな。

2. 当方初の審査付き事前登録研究(registered reports; レジレポ)であったこと。追試は何度もやってきたのですが,レジレポは初めてでした。プレレジ革命だからみんなやろうぜ!と言う分にはいいんですが,それがどんなもんか実際に体験する必要がありました。感想としては,まじキツ。レジレポは第1段階の査読をクリアすると結果がどんなんであれ掲載させるよってやつなんですが,けっこうキッツい査読を受けて第1段階でアクセプトされた際には,クククもらったぜッと喜んだものでした。しかし結果が出揃って論文を完成させた後の第2段階の査読は,単に結果の陽性性を評価しないというだけで普通にガチでした。コメントが数十箇所つきました。まあつまり査読のみで考えると,通常の倍キツイです(普通は論文完成後の1回だけだからね)。キツイだけじゃなく,査読期間も倍なので時間かかります。このあたりはなんとかしないと絶対に流行らんだろうなと確信しました。これを今後の学術出版の主流にしていくには相当の工夫が必要ですね。ちなみに雑誌側も我々の論文が初めてのレジレポだったようです。お互い貴重な経験になりました。

あ,そういえば最後に,新田さんからも一言もらえましたのでご紹介しておきます。(メールに書いてくれたのをそのまま貼ります)

「やったぜ!
我々の糞,ゲロに心血注いだ日々は,ようやく報われた。」

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