7.11丸藤VS杉浦〜陽のあたる場所で〜耐え続けた先の明るい未来
プレビュー
「いい思い出よりも辛い思い出や悲しい思い出。そういうものが本当に多くて」「だけど耐え続ければ、いつかそんな思い出を笑って話せるときがくると信じています」「だからみなさんその日まで一緒に頑張りましょう」。32分19秒に渡った丸藤正道と杉浦貴のGHCヘビー級タイトルマッチ。激戦を制した丸藤の言葉はとても重く、そして暖かい。
この日の試合は過去の丸藤杉浦戦を現代にアップデートした好試合となった。レスリング出身の二人ならでは序盤の静かなグランドの展開。そこから丸藤が腕攻めでリズムを掴むも、杉浦は場外でのスピアーとネックスクリューで反撃。杉浦が打撃で攻撃を試みると、それをスワンダイブ式のラ・ケプラーダで丸藤が反撃。現代風の目まぐるしい攻守の切り替えではなく。しっかりと相手の攻撃を受け止めた上で、それを上回る攻撃で反撃をする。そんな展開が続いていった。
普段は相手の攻撃を華麗に受け流す丸藤も、この日は杉浦の攻撃をひたすら受け止め続けた。膝蹴りにエルボー。そして五輪予選スラム。50歳を超えても鋼の肉体を維持し、成長させている杉浦の攻撃を喰らい続けるの並大抵のことではない。しかしそれらを全て丸藤は受け止めた。もちろんそれだけではない。杉浦の切り札である雪崩式五輪予選スラムは受け止めずに、トップロープからの雪崩式不知火で反撃。いわゆるノアの伝統である受けの強さを見せつつも、そこに丸藤のオリジナリティを加えた攻撃もしっかりと刻み込んだ。そこから先は今の丸藤の武器である虎王のラッシュで攻め続ける。様々なパターンでの虎王を仕掛けるが、これを耐えるのは杉浦。それは「俺はこんなもんじゃ倒れないぞ」「あんたの引き出しもこんなもんじゃないだろ?」と丸藤に問いかけるようにも見えた。
その杉浦の問いかけに丸藤も応える。虎王零式をクリーンヒットさせてなおフォールにはいかない。丸藤は杉浦を引きずり起こしてポールシフトの体勢に入る。そしてそこから更にエメラルドフロウジョンの形で杉浦をマットに突き刺した。さすがの杉浦もこれには耐えきれず、丸藤は3カウントを奪い見事勝利をおさめた。杉浦が相手だったからこそ、丸藤が全ての引き出しを出す素晴らしい試合になった。ノアの暗い時代を照らした丸藤杉浦戦は光明が見えた今のノアでも変わらず、そしてより強い光を放っていた。
終わってみればこの試合は「耐える」という言葉がキーワードになっていた。相手の攻撃に耐え続け、そこから反撃して勝利する。プロレスが持つ武器にして、それはノアの看板でもある。この試合は新型コロナウイルス感染症で辛い経験をしているファンへのエールだったのかもしれない。辛い時代を耐え続けた丸藤と杉浦だからこそ。どんなに辛いことがあっても逃げずに耐え続ければ。いつかそれを乗り越えることができる。二人がそれを体を張って証明してくれたのかもしれない。明るい未来を信じて。再び陽のあたる場所を目指して。丸藤正道と一緒に歩んでいきたいと思わせた試合だった。
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