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魅せる全てはリングの中〜小峠VS仁王

トップ画像は@shun064さんの作品です。

小峠篤司のここ数年のイメージは芳しくはなかった。jr→ヘビー→jrという変遷。ユニットも金剛→スティンガー→フルスロットル→桃の青春と目まぐるしく動いている。曰く「コロコロ動きすぎ」「話題に走ってる」という意見もあった。プロレスラーとして常に外に向けて話題を発信することは悪ではない。しかしそれが先行してしまうのは、決して良いのもではない。


そんな状況下で3.14に吉岡世起を破り、GHCjrのシングル王座を久々に戴冠した小峠。初防衛戦の相手として迎えたのは仁王。両者とも最近のノアjrでは珍しく舌戦などを積極的に行わず、前哨戦でも「しっかりした試合を見せる」という方向で進んでいた。それはまさしく「話題ではなく試合で見せるのが王者だ」と言わんばかりの小峠の決意だったのかもしれない。


4.18はメイン、セミ前ともにGHCとGHCナショナル王座の前哨戦。片や武藤敬司、片や藤田和之。大物ベテランが絡む2つ試合に挟まれ、「話題性」という面でセミのGHCjr王座戦は苦しい立ち位置だった。しかしこの日の全試合を見終えた観客の期待。それを大きく上回ったのは小峠VS仁王だったと言える。


ハイスピードの展開でも、空中戦でもない。お互いの動きを読み合う「先の見えない試合」。それは序盤のヘッドロックを掛け合う時から始まっていた。いわゆる「お互いが素早くヘッドロックを掛け合う→数回続けたあとにぱっと離れて間合いをおる」という基本的な動き。そうくるかと思わせて、ヘッドロックから相手の足をとりフォールを狙う。細かい動きひとつをとっても、基本の裏を取り合うという展開。終盤のトップロープ上の攻防。単純な切り返し合戦ではなく「相手の流れをどうやって崩すか」という部分に力点を置く。まさにベテランかつ万能型の仁王を相手にするに相応しい流れだった。


そこに小峠が付け加えたのは「受身の強さ」だ。小峠は上記の読み合いに対応しつつ、仁王の大技(みちのくドライバーやストゥーカスプラッシュ)らを全て受け止めた。更に打撃でも仁王が膝のサポーターを外して放ったランニングニー(トランスレイヴ)も受けきった。小峠はこれまで受身に定評があったが、ヘビーを経験したことでそれを更に高めた。そうして相手の全て跳ね返して、最後はキルスイッチで見事に勝利を収めた。


小峠は語る言葉を減らし、ある面では外へ向けた発信を弱めたのかもしれない。しかしそれは「試合を見ろ!見れば絶対に満足させる」という覚悟だったのかもしれない。試合に至る話題は確かに重要だ。しかし観客の目に最後に映るのは「その試合が面白かったか?」である。多くを語らず、されど王者として相手の全てを受け止める。それは2020年のあの男の姿を彷彿とさせる。小峠がノアjrで目指すモノ。それはまさしく「アイアムノアジュニア」なのかもしれない。

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