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幻想を超えた潮崎と拳王〜プロレスリングノア

かつて武藤敬司は「思い出と喧嘩しても勝てねえよ」という名言を発しました。朧げな記憶ですが、確か00年代の総合格闘技ブーム(アントニオ猪木の影)に対する発言だったと思います。どんなに現役世代が努力しても、アントニオ猪木というファンの思い出(幻想)には勝てないという意図だったように思います。時が流れ武藤自体がファンの幻想となったのは皮肉な話ではあります。

プロレスリングノアは今年で創立から20年を迎えます。ノアの歴史はこうした「過去の幻想」との戦いだったと言っても過言ではありません。90年代の四天王プロレスを超えることが一つの命題となり、常に幻想と戦ってきました。それは03年三沢小橋戦で一旦は成し遂げられました。しかし今度はその三沢小橋戦自体が幻想となってしまいました。そして以降のノアは三沢小橋を超えることが目的になりました。

しかしこの幻想を超えることは、これまでのノアでは出来ませんでした。丸藤KENTAなど素晴らしい試合はありました。ですが三沢の突然の死去、小橋がガンによる最前線からの離脱という不幸な出来事により、「三沢小橋を超えた」という言葉は少なくとも私の中では禁句になっていました。

「三沢さんや小橋さんのいないノアは不満ですか?」「自分はそうしたものとも戦っています」と杉浦が言ったように、ファンの中でも「三沢小橋を超える」ということに対する複雑な感情はあったかもしれません。

武藤が言うように幻想に勝つことは難しいのかもしれません。もしかしたら思い出が過去になるまで(忘れられるまで)は無理なのかも。でもそれはあまりに残酷だ。そうした感情がある中、「記憶の中の三沢小橋」を遂に超える試合がありました。それが2020年8月10日の潮崎拳王です。

単なる垂直落下の競い合いでも、テンポの競い合いでも、危険技の出し合いでもない。根底に「自分のフィニッシュホールドに繋げる」というロジックがあり、更に単純な技を必殺技として昇華させた潮崎と拳王。更に相手の技を全て耐えきるという形はまさにノアの真髄を表現していました。お互いが相手を越えようと競い合った結果、私の中の幻想出会った「三沢小橋」を超越した試合を見せてくれました。

三沢と小橋を受け継ぐ潮崎と「三沢も小橋も知らない」拳王が伝説の試合を超え、新しい伝説を作り上げたというのはとても感慨深いです。ノアの創立から20年。色々なことがありました。ノアの全盛期は過去の話だという意見もあります。確かに知名度や集客はそうかもしれません。しかし「試合内容」については今が全盛期だ!と胸を張れます。潮崎拳王があるから大丈夫だ。そんな言葉がノアのファンから聞こえてきそうな横浜決戦だったと言えるでしょう!

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