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11.28中嶋VS拳王 これが金剛の戦い〜勝者と敗者に祝福を〜

トップ画像は@shun064さんの作品です。

11.28代々木第二体育館で行われたプロレスリングノアの二冠戦。GHCヘビー級王者中嶋勝彦とGHCナショナル王者拳王による二本のシングルベルトを賭けた試合。唐突に設定されたように思われるこの試合だが、両者の争点は唯一つ。「1.1日本武道館大会でのメインの座」。これに他ならない。現体制に移行して2度目の日本武道館大会。通常であればメインイベントはGHCヘビー級王者中嶋勝彦のタイトルマッチになる。そこに割って入るために拳王は敢えて賛否の分かれる二冠戦を提案した。わずか1ヶ月強前にもN-1決勝で対戦した両者。ここで中嶋勝彦に敗れた拳王が同じ相手に連敗を喫する。それは日本武道館のメインだけではなく、ノアでの己の立ち位置もゆらぎかねないしかし拳王はそのリスクを背負った。

一方の中嶋はどうか?丸藤正道を下し、ようやく自分の時代を築こうという状態。拳王の挑戦を受けなければ日本武道館のメインに立ち、中嶋勝彦時代を高らかに宣言することも可能だった。しかし中嶋はそれをしなかった。拳王の呼びかけを二つ返事で了承し、日本武道館大会前の大一番へ臨むこととなった。

金剛という同じユニットに属する中嶋と拳王。両者に共通する価値観は「信念を持って自分のやりたい試合をする」という点である。公の場で頻繁に言葉を交わす両者ではないが、その一点において両者の認識は一致しているだろう。それをまざまざと伝え、そして金剛だからこそできたのがこの日の死闘であった。

序盤からひたすらにお互いを蹴り合う両者。ミドルキックで相手のボディを。ハイキックやパントキックで顔面を。徹底的にお互いを痛めつけいった。単純な打撃だけにとどまらない。拳王のコーナートップロープから場外へのPFS(ダイビングフットスタンプ)。そして雪崩式のドラゴンスープレックス。中嶋もヴァーティカルスパイク(垂直落下式ブレーンバスター)に加え、禁断の雪崩式でダイヤモンドボムにも見えるデスバレーボムを繰り出す。お互いにフィニッシュホールドを出し合ってもカウント3は奪えない。奪えないならばと序盤で出し尽くしたかに見えた打撃戦が再開する。時計の針はどんどん進むが、両者ともダブルノックダウンとなる時間も少なく、ひたすらに蹴り、ひたすらにそれを受け止める。

数少ない両者の動きが止まったのは終盤の拳王の胴締めスリーパー。リング中央で切り札を出した拳王。ここで一気に絞め落とすかに見えたが、中嶋をこれをロープに逃げない。序盤足攻めで拳王にダメージを与えたことを、観客に思い出させたかの如く、肘で拳王の胴締めをかいくぐり絞め技から脱出する。この時間帯でも己の技術で技から逃れるのは圧巻である。

残り時間が55分を過ぎても試合開始直後かと錯覚するような打撃戦が続く。拳王が掌底ラッシュで最後の力を振り絞れば、中嶋はなんと禁断のラリアットを放つ。それは師匠の健介を模したモノなのか?それても無意識にあの男のイメージがよぎったのか?しかし中嶋はそのラリアットでもカバーに至ることはできず、ゴングが鳴り60分フルタイムドローとなった。

ドロー決着となったことでベルトの移動はなくなった。しかし「日本武道館メイン争奪戦」という観点では無情にも勝者と敗者に分かれる結果である。GHCヘビー級のベルトを中嶋から奪えねば、拳王はその権利を得ることができない。ドローではあったが勝者は中嶋、敗者は拳王となった。だからかもしれない。試合終了後にマイクを持った中嶋が言葉を発した瞬間に「あの男のテーマが鳴り響いた時」。

サードロープを蹴ることはしても花道を使わず。一言も発さずその場を後にしたのは。

無冠ながら王として風格を持つ潮崎豪の帰還によって幕を閉じた11.28代々木第二体育館大会。しかしだからといって中嶋と拳王の激闘が色褪せることはない。両者共にリスクを負いながらもリングに上ったこと。そしてお互いの全力を出し切ったこと。「これぞノアの試合だ!」と言い切ることは難しいかもしれない。しかし「これぞ中嶋VS拳王だ!」「これぞ金剛の試合だ!」。これだけは間違いなく言える。願わくば勝者中嶋と敗者拳王の二人へ。大いなる祝福を与えてほしい。

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