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10.16ジェイク・リーVS宮原健斗〜古い時代はこれで終わりだ!〜

機動新世紀ガンダムXという作品があります。平成前期のTV版ガンダムシリーズでも「富野作品であるV」「ガンダムというフォーマットを破壊したG」「ガンダムを再構築したW」といった作品と異なり、異質の作品がガンダムXでした。戦後を生きる少年が少女と出会い、新たな戦争の発生を防ぐというテーマ。そこにニュータイプとは何か?という部分にもフォーカスしながら話を進めていったのがガンダムXでした。視聴率低下やテレビ朝日の方針転換などもあり、放送期間中に番組開始時間が夕方から早朝に移行するなどいわゆる不遇の作品でしたが、私はこの作品が大好きでした。

しかしこの作品はある種の層からは不人気でした。それは作中で「ニュータイプは幻想であり人の革新ではない」としたことが影響しています。ガンダムが持っていたテーマの一つであるニュータイプ。人が宇宙に進出したことによって新たな能力に目覚める=人の革新。いわば「主人公=時代を創る人物=ニュータイプ」という論法ですね。そのためニュータイプという概念がある作品の中で、ガンダムXのように「主人公がニュータイプではない」というのは珍しいパターンでした。そうしたニュータイプを「特殊な能力を持っている=人の革新ではない」と言い切ったことは当時衝撃的でした。ガンダムという作品でガンダムを否定したとも言えるかもしれません。

ニュータイプとは無数にある人の進化の可能性のひとつでしかない。無数の選択肢の一つでしかないニュータイプこそが至上という価値観は間違っている。


前段が長くなりましたが、10.16ジェイク・リーVS宮原健斗の三冠戦を見てガンダムXにおけるニュータイプ論をふと思い出しました。全日本プロレスにおけるフラッグシップタイトルである三冠統一ヘビー級。かつて全日本に存在していたPWF、インターヘビー、UNの3本のベルトをジャンボ鶴田が統一し、以降は1つのタイトルとして歴史を刻んできました。三冠戦の価値を高め「三冠戦とは何か?」という部分に深く影響を与えたのは、三沢光晴を筆頭とした四天王です。彼ら4人の織りなすハイレベルな攻防。それでいて反則やリングアウトなどを許さない完全決着をつける戦い。当時のファンは「四天王による三冠戦は革新的なプロレスだ」「これこそがプロレスの進化の極みだ」という感覚をもっていました。四天王プロレスにリアルタイムでは後期でしか触れていない私もそんな気持ちを抱いていました。

しかし00年に三沢光晴たちがノアを去り、その後川田利明も全日本を去りました。もちろん彼らがいなくなっても全日本の歴史は続きます。武藤敬司や小島聡をはじめとし、その間様々な王者が誕生しました。もちろん彼らは四天王プロレスを三冠戦で再現したわけでありません。しかしある種のフォーマット「不透明決着を許さない試合(スポーツライクな試合)」という部分は脈々と継続されていました。もちろんフォーマットからズレる試合もありましたが「それはあくまでも外様の試合であって生え抜きの三冠戦ではない」という見方もできました。

しかし今回のジェイクと宮原の三冠戦はそうした「三冠戦とはこれであるという定型を飲み込む戦い」でした。序盤のジェイクのクラシカルなレスリングからの一点集中攻撃。中盤で切り札のスネークリミットやエプロンから場外に放り投げるジャーマン・スープレックスを放った宮原。両者のともフィニッシュホールドであるD4C(垂直落下式ブレーンバスター)やシャットダウン・スープレックス(ダルマ式ジャーマン)を出しても決着がつかない。フィニッシュホールドがフィニッシュホールドにならないという四天王プロレス的な要素をある部分では出し。

しかし一方で。ジェイクの宮原の腕を鉄柵に縛り付けての攻撃。和田京平レフェリーへの誤爆からのノーレフェリー状態の創出。KO寸前の宮原の頭に水をかぶせて挑発するジェイク。それ以外でもあわやリングアウト負けか?と錯覚させられる展開もありました。これらは四天王プロレス的な三冠戦にはないものです。

一方で四天王プロレスのフォーマットをなぞり、他方でそこに無い色を加える(※否定というよりも三冠がバラバラだったころにあったタイトルマッチの歴史を踏まえていた?)。これを生え抜きのジェイクが王者として主導したことを考えると「三冠戦の歴史を超えるのではなく飲み込む」という言葉が私の脳裏に浮かびました。「俺はあの試合をできないわけではない」「しかしあれが正解ではない」。その部分においてジェイクと宮原は共闘していたかもしれません。結果は60分フルタイムドローでしたが過去を超えて飲み込むという視点で言えばジェイク&宮原組の勝利でした。


「四天王プロレスこそがプロレスの革新だ」。ガンダムXを思い返してみればその言葉は誤りだったのかもしれません。四天王プロレスは無数にあるプロレスの進化の一つであり、それ以上でも以下でもない。四天王プロレスだけがプロレスの未来を描くわけではない。未来を切り開くのは能力やスタイルではない。必要なのはそこに生きる人それぞれの熱意である。


ジェイクは三冠戴冠後、ヒールでありながら「王者として全日本を引っ張る」という姿を示し続けていました。そして宮原もこの試合前に「この試合に全てを賭ける」と言わんばかりの覚悟を見せていました。

まさしく両者の熱量が時代を動かした。来年迎える全日本プロレス創立50周年を前にして。ジェイクと宮原が古い時代に決着をつけた。そんな感想を抱く節目の試合だったと言えるでしょう。

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