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チャンカン決着〜ジェイクの堂々たる戴冠と宮原健斗が見せた存在感

緊急事態宣言のため、残念ながら終盤の後楽園ホール大会が無観客での開催となった全日本プロレスのチャンピオンカーニバル。本来であれば満員の観客の拍手で讃えられたはずなのが、初優勝のジェイク・リー。しかし自信を月と称するようになったジェイクの初優勝が「拍手という光」の無い無観客試合で達成されたのは、何やら趣きが深い。

現代国内プロレスで一つのテーマになっているのは「攻守の切替=トランジション」である。トランジションをいかにしてハイテンポで行えるか?それが名勝負か否かであるという風潮もある。実際そうした試合を行うにはスピードが必要であり、体格的にも、190cm近くの昔ながらのヘビー級には厳しくなる。それは大型選手の多い全日本にとっては辛いところだ。全日本の試合が適切に評価されないのはこうした面もあるかもしれない。

しかしそれを崩す切り札がいる。そう宮原健斗である。諏訪魔や石川修司と正面からぶつかることができる(186cm102kg)。彼らをシャットダウンスープレックス(だるま式ジャーマン)で投げる説得力のある体格を持つ。そしてブラックアウト(ランニングニー)で見せる瞬間的なスピードを併せ持つ。いわば全日本の特異点たる存在。

その宮原に近い領域で挑み降したのがジェイクだ。この試合ではジャイアントキリングやキチンシンクなどの激しいぶつかりで攻め立てた。そして大型選手ならではの衝撃を活かしつつも、随所にキックなどのシャープな打撃を混ぜて特徴を出す。破壊力とスピードをギリギリのバランスで両立していた。

興味深いのはシャットダウンスープレックスを巡る攻防である。宮原のシャットダウンスープレックスは時間をたっぷりかけて相手を持ち上げて、マットに叩きつける。それ自体がスローテンポな技であるだけでなく、持ち上げるまでの溜めも特徴的だ。この日の試合でもジェイクを持ち上げようとする宮原と、それを堪えるジェイクの攻防は見応えがあった。スローテンポな攻防だが「やるからやられるか」という緊張感があり、スピードに頼らないトランジションのお手本を見せた印象である。

試合終盤力の攻防を制した宮原は、ジェイクを発射台から解き放つ。勝負あったかに見えたがこれをカウント2.9で返したジェイク。大型選手としての体の強さを発揮し、最後は同じく悠然とした技であるD4C(垂直落下式ブレーンバスター)で宮原を沈めた。

ジェイクは己の持ち味を全て出して宮原に勝ち、チャンピオンカーニバルを制した。おそらく5.16の大田区総合体育館では諏訪魔の持つ三冠に挑戦することになるだろう。ジェイクが時代と王冠を独占するのか?諏訪魔がそれを跳ね返すのか?同世代の青柳優馬の勢いは?ゼロから全日本に挑戦した芦野が見せる成長は?そして負けてなお「太陽たる証」を見せた宮原の逆襲なるか?

全日本プロレスの未来は楽しみである。

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