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【認知症映画#3 】明日の記憶

「ねえ先生、この病気ってさ、止める薬も治る薬もないんだよね。
だったらさ、あんたゆっくり死ぬんだって言ってくれよ。」

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明日の記憶

人を愛すること、そして一緒に生きていくこと…。生きることの辛さ、切なさ、そして素晴らしさ…。想い出のすべてを、あなたに託す。原作は第18回山本周五郎賞を受賞し、2005年<本屋大賞>の第2位に輝く荻原浩の傑作長編『明日の記憶』(光文社刊)。俳優として世界に活躍の場を拡げる渡辺謙が、ハリウッド滞在中に同原作に出会い、是非映像化したいと願い出た熱い想いが込められており、また自身初の映画主演作。そして、夫の病が判明してからも健気に夫を支え続ける妻・枝実子には、樋口可南子。また、坂口憲二、吹石一恵、水川あさみ、木梨憲武、及川光博、香川照之、渡辺えり子、大滝秀治らの多彩なキャストが集う。さらに、重いテーマの中に心和ませる上質なユーモアを織り込み、喪失を乗り越えていく夫婦の情愛を、映像化するのは、「トリック」「ケイゾク」シリーズ等を手掛ける奇才・堤幸彦がメガホンを取る。

(引用:Amazonプライムビデオ)

混乱、拒絶、諦め

佐伯雅行、49歳。
職業、広告代理店営業局部長。

仕事に情熱を注ぎ、家庭を守る妻と結婚、出産を控えた娘のいる、順風満帆な人生を送る彼に、徐々に異変がおこる。

視界が歪みや、歩き慣れた道が分からなくなる。同じものをいくつも買う。頭痛や倦怠感。

気のせいだ、疲れだと、自身の不調を振り払うように頭をこつこつ叩き、何でもないフリをする佐伯の心の中は混乱に満ちていた。

大事なクライアントとの打ち合わせを忘れたことを機に、病院を受診し、自分より年若い医師から認知症だと告げられる。

心当たりがあるものの、自分を蝕む病を受け止め切れず、激しい拒絶を示す。

そんな主人公に、医師は「死ぬことは宿命です。老いることも人の宿命です。」「でも僕には今出来ることがある。佐伯さんにも自分にできることをしてほしい。諦めないでほしい」と切々と話す。

「俺が俺じゃなくなっても平気か」
そう涙ながらに尋ねる佐伯に対し、妻 枝実子は、「私がいます。私がずーとそばにいます。」と言い、涙を拭き合うシーンは、まるでかつての我が家を見ているかのようで胸を打たれた。

私の母は、認知症の初期だと告げられたあの日、どんな表情をしていただろう。どんな気持ちだっただろうか。


加速するまだらな世界

佐伯は結局営業局から資材管理局へ異動になり、退職へと流れていく。
「何事もいつかは終わるのだ」そう自分に言い聞かせて。

夫の代わりに、働きに出る妻。家庭の中でも、主導権は枝実子へと移る。家のそこかしこに貼られたメモは、認知症家族には見慣れた光景だ。

仕事を辞め、家にいる佐伯の病状は刻々と進み、不穏になったかと思えば、機嫌良く食卓を共にする。

不安定な夫を優しく受け止め、明るく振る舞う妻も「もういいかげんにして」、と怒りを露わにする。それでも二人寄り添いながら、懸命にもがく姿は、母と私の姿に重なって見えた。

我が家の場合は、私の器が小さすぎて、私が勝手に怒りぷんぷんになってただけだが…。

物語は最後、もう妻のことを認識していない佐伯と、自分を他人だと思い声をかける夫に向けた絶望、怒り、そしてあきらめに満ちた枝実子の表情で終わる。
そして映画の冒頭の、もう言葉を発することすらなくなり、彼方へと旅立った佐伯に、そっと寄り添う枝実子のシーンに繋がる。

彼らはその後、どんな日々を送ったのだろう。


最後に

この映画を観終わって、私は数日前から書いていた自分史を書き終えた。

母が認知症を発症してからの自分史には、自分を責める言葉しかない。

私は、他の家庭のように、母と笑い合い、平穏に明日という未来を築きたかった。
母娘で仲良く旅行に行ったり、ショッピングしたり、私の恋人に会ってほしかった。

母に「あなたは幸せになっていいのよ」と言ってほしかった。そうしたら、前に進める気がして。

でも母が認知症で、まだ、まだらな世界に留まってるも、徐々に彼方へといってしまう現実は変えようがない。

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母は、佐伯のように老人ホームへと、この冬旅立つ。
私は枝実子のように、たとえ私を娘と認識しなくなった母でも、穏やかにそっと寄り添えるだろうか。

今の母を否定するつもりはない。
全身が強ばり、上手く歩けない母も好きだ。食べこぼしで汚れた服を着ている母も好きだ。ぼんやりとした表情で座り込む母も好きだ。排泄が上手く出来ず、トイレや自分を汚す母も好きだ。

母の全部が大好きだ。


思い描いたものとは違うが、私は母が生きる限り、今日そして明日へと続く人生に寄り添っていきたい。

ぼたぼだと涙を流しながら、そう思った一作だった。


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