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映画監督 伊丹十三・考

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映画監督伊丹十三とは何者だったのか? 伊丹十三と伊丹映画を、13本の記事と4本のコラムをもとに再発見する特集です。
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#市川崑

伊丹十三 幻の監督デビュー作『ゴムデッポウ』とチロル

「アマチュアの秀作」  最近、恩地日出夫監督と伊丹十三監督の対談記事を目にした。2人は、伊丹が監督になる前から、監督と俳優としてのみならず、公私ともに親しくつきあっていた仲である。  対談のなかで、「3本目(の監督作)でプロになった、と思った」と言う恩地に、伊丹はこう返している。 「正確には4本、27歳ぐらいのときに撮った16ミリの映画があっただろう。アマチュアの秀作『ゴムデッポウ』(笑)」  そう、『ゴムデッポウ』こそは、『お葬式』以前の、伊丹がまだ一三と名乗っていた

俳優・伊丹十三のこの1本〜 『吾輩は猫である』

 俳優時代の伊丹十三といえば、監督デビュー直前の時期にあたる『家族ゲーム』『細雪』の印象が強いかもしれないが、筆者が〈俳優・伊丹十三〉で1本を選ぶなら、『吾輩は猫である』で演じた美学者・迷亭役を挙げたい。  おなじみの夏目漱石の同名原作を、市川崑監督によって映画化したもので、苦沙弥教師役には仲代達矢が扮している。  猫が主人公の映画というのは撮影に苦労しそうだが、すでに『私は二歳』で赤ん坊を主人公にした映画を見事に傑作に仕上げた市川崑からすれば、技工を凝らして猫を擬人化させ