『なぎの花』



那須茂竹 昭和5年2月20日発行 非売品 三益社
附、「序」永井潜

 静岡の古書店から、一冊の句集を購入した。
 著者は那須茂竹。茂竹は俳号で本名は那須太郎という。彼は名古屋在住の俳人で、小酒井不木の俳句仲間でもあった。
「小酒井不木研究史」長山靖生(『叢書新青年 小酒井不木』博文館新社・1994年4月)によれば、『名古屋新聞』大正15年6月4日号掲載の「桐下亭小宴」という連句会の折にも、茂竹は不木と共に参加している。また、『犯罪学雑誌』昭和4年6月号の小酒井不木追悼特集にも、本名の那須太郎名義で「小酒井不木博士の死」という一文を寄稿しており、内容からはその親密さが伺われる。医者出身であり俳句の趣味を同じくする事もあって、茂竹は病気で引きこもりがちだった不木の良き話し相手になっていたようだ。不木が自宅の一隅に研究施設を建てた時、研究のパートナーとして茂竹に声をかけたが、その時はまだ時期ではないと茂竹の方で辞退している。
 茂竹にはもう一冊『ちゝろ集』という句集があり、この『なぎの花』は第二句集にあたる。巻頭に「この集を故小酒井不木先生の霊に捧ぐ」とあり、「自序」は「小酒井不木博士の死」とほぼ同文の、小酒井不木追悼文となっている。そういえば、「小酒井不木博士の死」の方には、こんな一文があった。

これまでの御恩に深く感謝いたします。生前御覧に入れた句ばかりで茂竹第二句集を編みまして、一周忌までには、誓つて御霊前に捧げます。
「小酒井不木博士の死」(『犯罪学雑誌』昭和4年6月号)

『なぎの花』の発行日は昭和5年2月20日。誓いは守られたわけだ。
(記 2002/11/23)

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