日記(弁)


今日は、朝家を出ると、

オートロックの扉の先に「弁」が設置されていた。

そうだ、今日は年に一度の「逆流祭」だった。

逆流祭は地域のお祭りで、

この日は各戸のエントランスや玄関に、町内会の方で弁が設置される。

昔この地区では水害が多発していた。

そんな中昔の人はどうにかしたい、と天才的な方法を思いついた。

発案者はうちの地区一の物理学者、篠原さん。

それが

「地区に流れ込んできた水を海に逆流させる」

こと。

しかし物理学の力で実現することは難しいので、

パワーを持った「逆流の神様」を敬うことにしたのだ。

これは篠原さんの奥さん、篠原お篠のネーミングとのこと。

それから水害も減ったという。

さっき道で町内会長が喋っていた。


なので門戸に弁を設置するのには、

「逆流の神様」を家から逃がさないようにする

という意味が込められている。

今日はどの家にも逆流の神様がいるのだと思うと、おごそかな心持ちになる。


夕方、家に帰るとまだ弁がついていた。

朝出る時はすんなり通れたが、

弁というものの仕組み上、出口側からだと原則通れない。

しかし、家には入りたい。

もう越してきて3年目なので焦らない。

弁は木の板でできているので、多少たわむのだ。

知っている。

しかしちゃんと見ると、

今年は木の板ではなくアクリル板じゃないか。

やばい、入れるか。

町内会長が道からこちらを見ている。

「手伝いますか?」

「大丈夫です」

一応例年のたわませる方法を試してみよう。

たわみを利用して

「…よいしょ」

と隙間から入る。


いけた。

なんなら木の板より入りやすかった。

これで逆流完了。

逆流の神様、今年も逆流させてくれてありがとう。

水害の方も、なにとぞよろしくお願いします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?