日記

今日は、駅中できれいなお姉さんとすれ違う。

菜々緒系美人お姉さんだ。

すれ違う瞬間、強烈に良い香りが鼻を突く。

思わずうっとりして

「うっ」

と声を出してしまう。

「うっとり」の「うっ」だ。

声が出てしまうほどのうっとりは初めてだ。

ここまでのうっとりだ、大切にしていきたいところだ。

私も菜々緒になりたい。

あの香水をゲットして、菜々緒になる。

誓った。

思わず

「ちっ」

と声に出てしまう。

「ちかった」の「ち」だ。

ちょっとだけ周りの人に嫌な顔をされてしまう。


幸い今日は暇だったので、早速デパートに探しに行くことに。

2階が香水売り場で、さまざまな香水が並ぶ。

さっきの記憶を頼りに探すも、

種類が多すぎて全然見つからない。

いろいろなものを試しているうちに、

さっきの香りの記憶がだんだん分からなくなってきてしまう。

やばい。

さっき誓ったばかりなのに。

仕方がないので、

売り場にいたお姉さんに聞いてみることに。

お姉さんもお姉さんで、いい香りを放っている。

「1番こう、いい香りのやつって、どれですか?」

ダメ元で聞いてみる。

すると

「これですね」

と、棚の1番上の埃をかぶっているやつを出してくれる。

即答だった。

丸いフラスコのような形をした、うっすらピンクの瓶に入っている。

「イメージでいうと、カッコイイ系のお姉さん、菜々緒系の香りですね。」

お姉さんすごい。それだ。間違いない。

感激して

「以心伝心ですね」

と言うと

「ハンドパワーです」

とお姉さん。

超能力的である、ということを言いたかったのだろうか。

さっそく、香りを試させてもらう。

瓶の蓋が開けられる。

その瞬間、さっきの強烈な良い香り。

これだ。

お姉さんすごい。

「これです、探してたの。すごいですね」

と言うと

「ハンドパワーです」

とお姉さん。

もう購入してしまうことに。

見つかって良かった。

これで私も菜々緒だ。


お会計をお願いすると、

「さっそくつけていかれますか?」

とお姉さん。

せっかくなのでつけていくことに。

お姉さんは瓶の蓋を開け、ちょっとかたむけて置く。

私は手首を出して待つ。

すると、蓋の上に右手をかざすお姉さん。

それから、左手でレジ下の引き出しから黒縁メガネを取り出して装着する。

右手に力を込めるお姉さん。

これは…

「ハンドパワーですか?」

と聞いてみるが、

集中して聞こえなかったのか無視されてしまう。

お姉さんの表情は真剣だ。

しばらく様子を見守ろう。



ちょうど5分経ったところで、

「ぶしゃあ!」

と叫ぶお姉さん。

瓶の中の液体が飛び散り、私の手首へ。

ただ、液体はブラウスの袖口にも散ってしまっている。

待たされたし、服も汚されちょっと腹は立ったが

「すごいですね、ハンドパワーですか?」

と改めて聞いてみる。

すると

「ライトハンドパワーです」

とお姉さん。

メガネを外し、達成感に満ちた表情をしている。

「右手だけ使ったハンドパワーということですか?」

「はい新技で。メガネなしでできるように練習してるとこなんですけど。なにせ近視で。」

近視だった。

「頑張ってください。」

と言うと

「はい。」

とお姉さん。


店を後にする。

晴れて菜々緒になれた私はデパートを出て駅前を闊歩する。

「めっ」

「めでたしめでたし」と思っていたのが思わず声に出てしまった。

コンタクト用品のビラ配りのお兄さんに

「目、目ですよね。分かります〜、うちのケア商品ご存知ですか」

と声をかけられてしまう。

私はとにかく誰かに菜々緒をひけらかしたかったので、とりあえず話を聞いてみる。

1時間聞いた。


















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