日記
今日は、自販機で飲み物を選んでいると
真裏のコインパーキングから
ガン バン バウワン
と激しい音がする。
見ると、ハイエースだ。
ドアを勢いよく閉めたところのようだ。
それから、
「イッツチイ〜」
との叫び声。
運転席を降りたところに、MA1のおじさんがうずくまっている。
右手をブンブン振っている。
MA1の右肩に付いている布のリボンのようなタグがブンブン揺れる。
ドアに指を詰めたのだろう、可哀想だ。
おじさんはかなりダメージを受けていたようだったので、
私は
「大丈夫ですか?」
と声をかける。
おじさんは、
「普通こういうのって指でいくもんだよね。手のひらごといってしまった。でも大丈夫。」
と言う。
手のひらごとだった。可哀想に。
大丈夫とは言うものの、うずくまって動けないおじさん。
私は、
「救急車とか呼びます?」
と聞くと
おじさんは
「いや持ってるから。大丈夫だから。」
とのこと。
持ってるってどういうことだ、と思っていると
「右腕のポッケ開けてくれる?」
とおじさん。
アウターのMA1のポッケのことだろうか。
「はい!今!」
と言ったものの、
見ると右腕だけでいくつもポッケが付いている。
7個ぐらいある。
「どれですか!」
と聞くと
「えっと、一番大きいポッケだった気がする!やっぱよくよく考えると大丈夫じゃない!い、痛すぎる!」
とおじさんが弱音を吐き始める。急がなければ。
私はすでに、自分が完全に手当てモードに入っていることに気がついた。
一番大きいポッケを探す。
同じぐらいの大きさのポッケが3つあった。
「大きいポッケ3つあります!」
「チャック付いてるやつ!痛い、痛すぎる!骨折れてきたかも!」
やばい、骨が折れ始めている。
急いで確認すると、3つともチャックが付いている。困る!
「全部付いてます!」
「もういい!全部開けてみろ!痛い!折れつつある!」
ひとつづつ確認すると、2つ目までは空っぽで
3つ目を開けるとくちゃくちゃのレシートが1枚入っていた。
今探してるやつではないと思ったが、
「これですか!」
と確認する。
おじさんは
「いつの、なんのやつだ!痛ああああい!折れかかっている!」
とのことだったので、いちおうレシートを開いてみる。
「9月25日のやつです!ナチュラルローソンのやつです!ええと、赤むすびと、ポテロングと、あと、なんかの公共料金の支払い分って感じですけど!」
公共料金の欄が¥200000となっている。異常だ。
「8月な、何があったんですか!」
と聞きたいところだったが、今はそれどころじゃなかったのでグッと堪えた。
手当モードに入っていなければ、聞いてしまっていたかもしれない。
おじさんは、
「ポッケ右腕じゃなくで左腕だった!探して欲しい!痛いんだ痛い!折れてるかももう!」
と悲痛な声。
おじさんの額に脂汗がにじむ。
急がねば!
「はい!」
と言い左腕を見ると、今度はポッケが8つ。
「8つあります!」
「適当に開けろ!大きそうなやつ!痛痛痛(つうつうつう)!折折折(せつせつせつ)!」
おじさんは悲鳴に近い声を上げる。
私は急いで上から4つ目を開けてみる。
すると、中にマキロンが入っていた。
「マキロンです!」
「しめた!塗ってくれ!びちょびちょに塗ってくれ!ひたひたに塗ってくれ!ああ痛折近限界(つうせつきんげんかい)!!」
とのことだったので、
この感じの怪我に対して、マキロンは絶対違うと思う!と思いながらも、一応右手全体に塗ってあげる。
現場に立ち込めるマキロンの臭いに、私はむせ散らかす。
「ごめんなさい!ごほごほ」
「かまわない!もっとマキロンを!向回復向回復(こうかいふくこうかいふく)!!」
おじさんの右手の状態は良くなってきているようだ!
私はむせながら手当てを続ける。
むせすぎて手当が終わる頃には汗だくになっていた。
すると数秒後、
おじさんはむくっと立ち上がる。
そして、両手で平然と私の手をとり
「ありがとう。おかげで助かったよ。マキロンが女神に見えた!」
と丁寧にお礼してくれた。
女神、私じゃなくてマキロンだったか!とちょっと悲しかったが
「何よりです!治ってよかったです!」
と言う。
一礼して立ち去ろうとすると、
おじさんは
「あっ待って」
と、
MA1の右腕に付いていたリボン状の布のタグをむしりとって
「はい、これお礼」
と手渡してくれる。
それから、MA1のむしり取った後の部分にマキロンをかける。
なんだなんだ、と思って見ていると
「いや、痛折(つうせつ)の声が聞こえたから。
うん、もう行っていいよ。ほんとにありがとう。」
とおじさん。
私は、もらったタグをひらひらさせながら歩いて帰る。
どこに飾ろうかな〜