日記(ベランダ)


今日は、ベランダで洗濯物を干していると、

左隣の前田さん家のベランダからバター醤油の香りが漂ってくる。

そして、

ジュワー

と何かを焼いている音。

何をしているのだろうか。

「ホタテを焼いてるよ」

と左隣から柵越しに前田さん。

急でびっくりする。

前田さんのほうから教えてくれるとは。

ホタテを焼いているとは、いいなあ。

「いいですね」

と言うと、

「食べに来る?」

と前田さん。

うれしい。行く。

「ありがとうございます、干したら行きます」

と返すと

「はいはーい」

と前田さん。

ちょっとして、何事もなく干し終えることができた。

さあホタテ。

「終わりました前田さん、行かせてもらいますね」

と言うと、

「おっけー」

と、柵越しに左から手が伸びてきた。茶色くて怖かった。

「前田さん?」

「うん?」

ここから来いということか。

「つかまって」

と前田さんが手をさらにこちらに伸ばす。

「前田さん、無理です」

「そっかそしたらピンポンして」

とのこと。そうだよね。

「はい」

茶色い手は引っ込でいった。

玄関を出て前田さん家のインターフォンを押す。

「はいはーい」

前田さんだ。

左手にはトランプが握られている。

「トランプですか?」

と聞くと、

まだしばらく貝が開きそうにないので、トランプをして待っていようとのこと。

OK。

トランプにもいろいろゲームがある、という話になったので、

どのゲームをするか候補を出していく。

2人で出したところ、

・ババ抜き
・しちならべ
・大富豪
・ぶたのしっぽ
・ポーカー
・ジジ抜き

などの案が出た。

「案が出たね」

「そうですね」

しかしそれから、

「2人でやって楽しいだろうか?」

という前田さんの真っ当な意見を受けて、

トランプはやめることに。

私もそう思った。

貝はまだ開かない。

それならと、2人でもできる暇つぶしを考える。

・UNO
・料理
・Wii
・しりとり

などの案が出た。

まずUNO。

これはさっそくトランプの時と同じ理由で却下になった。

次にしりとり。

しかしこれも却下に。

前田さんが

「長く続いたためしがない」

と言うので。

なるほど。

「苦手なんですか?」

と聞くと、

「そうね」

とのこと。

続いてWii。

「スマブラをもっている」

とのこと。

2人で時間を潰すことを考えた時に、言うことがない最高のソフト。ありがたい。

テレビを付け入力を切り替える。

リモコンを取り出そうとテレビ台の引き出しを開いたところで、

「あ」

と前田さん。

「なんですか」

「ごめんリモコン友だちん家に置いてきたわ」

とのこと

「なんでですか」

「ごめん」

ということでWiiの線も消えた。

Wii Uだったので、リモコンとゲームパッドをそれぞれ使って対戦することもできなくはなかったが、

「それじゃトランプやるのと同じよ」

と前田さん。

「そうですかね」

どういった点でトランプと同じだと感じたのかは分からない。

貝はまだ開かず

ジュゴー

と音を立てているばかり。

前田さんが

「まるで悲鳴だね」

と言うので、私は

「そんな風に言うのはよしましょう」

と言った。


最後に残った案が料理。

たしかに時間潰しにもなるし、正直昼ごはんを食べていないのでホタテだけじゃ物足りないと言う気持ちもある。

なんだかんだ1番いい選択肢かもしれない。

前田さんに

「昼ごはん食べました?」

と尋ねると、

「食べてない?食べた?」

と聞かれたので

「食べてないです」

と返す。

すると

「そっか」

と前田さん。

それから

「俺も食べてない」

と続ける。

「はい」

「食べてないよね?」

「食べてないです」

「オッケー」

「はい」

ということで、料理で時間を潰すことになった。

とりあえず何の食材があるか確認することに。

「何かはある気がする」

と、冷蔵庫を開ける前田さん。

「なんかすいません、ありがとうございます」

「いいよ、焼きそばとか玉ねぎとかまあそれくらいしかなかった気がするけど」 

正直お腹が空いているので焼きそばは最高。

「これ冷蔵庫両開きなんだよね」

「すごいっすね」

左側から扉を開けると、

「あ」

と前田さん。

中を見ると、ぱっと見たところ牛乳と卵が入っている。

しかし入っているのはそれだけのようで、前田さんが頭を抱える。

焼きそばが食べられるという気持ちでいたので、私も一緒に頭を抱える。

すると

「固いプリンなら作れそうだけど…」

と前田さん。

完全にプリンの気分ではなかったので

「大丈夫です、やめときましょう」

と返した。

あと固さに関しては牛乳の量とかで調整できると思う。たぶん。

料理、UNO、Wii、しりとりを断念した私たちはベランダに戻る。

貝は開かない。

手持ち無沙汰で私は

「しりとりはじめ」

と言ってみる。

すると

「めんこ」

と前田さん。おお。返ってきた。

続ける。

私「こま」

前田「ますく」

私「くすり」

前田「貝開きそう」

私「え」

しりとりは終わったし、貝は開かなかった。

それから前田さんはトイレに行った。

すると、前田さんがトイレに行ったかみたかで

パカン

貝が開いた。ホタテだ。

最高。

私はトイレの方に向かって

「前田さん、貝開きましたよ!」

と報告する。

すると、

「え??何が開いた??」

と返ってきた。


それから、私と前田さんでホタテのバター醤油焼きをひとつずつ食べた。

前田さんはワサビをつけて食べていた。

怖かった。

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