日記
今日は、自転車のライトが切れたので電池を買いに電気屋へ行く。
こう書くとライトが切れたのは昨日今日の感じになってしまうが、昨日今日の話ではない。
お目当てはボタン電池CR2032だ。
電気屋さんに入ると、まず炊飯器コーナーが配置されている。
炊飯器ロードを通っていると、えげつない種類の炊飯器があることがわかった。
思わずひとつひとつ見ていく形になってしまう。
「ふっくら釜炊き」
「炊き立て長持ち」
などの宣伝文言が連なる。
そんな中
「二度炊き凄流」
という文言が目に入る。
「二度炊き?」と思ったのが顔に出てしまっていたのか、近くにいた店員さんが近づいてくる。
ネームプレートには、「佐藤」とあり、
そのすぐ上に小さく「客、第一主義」と書いてある。
佐藤は男である。
「『凄流』、お客様気になられられました?」
気になったのは『二度炊き』の方だったが、たしかに『凄流』も気になる。
私は、
「はい」
と言う。
「ですよね。システム的に最新のものでして。お客様的に気になられられたということでありましたら、ぜひとも説明させていただきたい。
これはまず『焚く』という概念のところが念頭にあります。
『焚い』て、それから『炊く』。
かと思いきや、一度戻すわけで。『炊き戻し』。この『戻し』を1、挟むことで美味しくなるわけですけれども。
ただ、ここで終わっては、お分かりかと思いますが、最新ではないですね。システム的に。
ここで、『戻し』尽くします。これがポイントです。それから、『戻し』。これですね。システム的に。」
私は
「はい」
と言う。
『二度炊き』について知っているわけではないが、
たぶん今の佐藤の話は『凄流』のシステムの説明ではなく『二度炊き』の方の説明だと思った。
「気色悪い説明だ」
と思った。
佐藤は満足げな顔で
「ではご覧になられられてください。ごゆるりと。」
と一礼して去って行った。
とにかくシステム的に最新であるということはわかったが、「二度炊き」が何なのかはよく分からなかった。
商品の横の説明書きをみると
「〜二度炊きとは、米をふっくら炊いた後に、一度炊いていない固い米の状態に戻し、それからもう一度ふっくら炊くという工程〜この一手間が、I LIKE YOU〜」
とポップ体で書かれてある。
戻すのか。
結局ポップ体の説明にしろ、気色悪い。
その中でも
「『焚く』と『炊く』の違い云々」
という佐藤の説明にだけ出てきた概念が、格段に気色悪いと思った。
横に実物が置いてある。
普通の炊飯器の背後に、織姫様の衣装の要領でチューブが円を描いて控えている。
おそらくシステム的にいうと、炊飯器でふっくら炊いた米を、チューブ部を通すことで炊く前の状態に戻し、それからもう一度炊飯器に戻してふっくら炊く、ということだろう。
モニターに実際の使用風景の映像が流れている。
ふっくら炊かれた米が、えげつない勢いでチューブを通り、また炊飯器に戻っていく。
『凄流』
の方は腑に落ちた。
男、佐藤が横から
「そ、チューブですよチューブ」
と口を挟んでくる。
私は
「はい」
と言う。
それから
「システム的に?」
と聞いてみる。
佐藤は
「ギミック的に」
と返してくる。
気色悪い。
本当は気色悪かったが、私は大人なのでにこやかに一礼して捌ける。
そうだ、電池を買いに来たんだった。
CR2032は、無事見つかる。
購入した電池をセットし、ぎらぎらに光るライトを点灯させながら帰り夜道を走る。
漕ぎながら、
先ほどの『凄流』のチューブを通るえげつないスピードのふっくら炊かれた米々の映像が脳内に再生される。
心なしか、いつもより早く漕げている気がした。
佐藤に
「ありがとう」
と心の中で伝えると
「どういたまして」
と返ってきた。
気色悪いなあと思ったが、
私はにこやかに一礼して疾走に戻った。
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