日記(コックさん)


今日は、コックさんの友だちが遊びに来た。

本名は別にあるけれど、長くて画数も多いので私は彼を「コックさん」と呼んでいる。

「画数が多いのは関係ないじゃん」と彼はいつもつっこんでくれる。彼にはそういう優しさがある。

そして彼は私のことを「ひーちゃん」と呼んでいる。

しかし私の名前は「ひとみ」や「ひかり」などではなく、

もともとコックさんが私のことを「非料理人」と呼んでいたところから派生してこうなった。

人のことを「非料理人」と括ってしまう、彼にはこういう残酷さもある。

そんなコックさんからLINEが来たのは今朝。

「キッチン貸して」

とのこと。

キッチンは減るものでもないので

「いいよ」

と返すと、

「ありがとう、あとで行く」

と返ってきた。

あとでっていつなんだろう、と思いながら待つことに。

さ、待と待と、と思ってスマホを置いたところでコックさんから通知。

「塩コショウとコック帽ってある?」

とのこと。

塩コショウはあるがコック帽は無い。

その旨を伝えると、

「鶏ガラは?」

とコックさん。

「あるよ」

と返すと、

「そしたらいけるわ」

と返ってきた。

鶏ガラでコック帽の代わりは務まるのだろうか。

まあコックさんがいける、というのでいけるのだろう。

私はふたたび、さ、待と待と、とスマホを閉じる。

すると、また通知。コックさんからだ。

「ごめんあと、」

まだ何か必要なものがあるのだろうか。

すると、

「鶏肉はある?」

とコックさん。

鶏肉。

鶏肉はあるけど、貸したくはない。

キッチンは減るものではないが鶏肉は減る。

「あるけど貸せないかな」

と返すと、

「じゃあ帽子は?」

とコックさん。

「コック帽?」

と返すと、

「そう、あ、なかったか」

とコックさんは続ける。

「うん」

と返す。



それから1時間後、コックさんが家にやってきた。

コックさんの名前は、今日も画数が多かった。

来るなりそそくさと料理を始めるコックさん。

「ひーちゃんごめんキッチン借りるわ」

とのこと。そうよね。

コックさんが私のキッチンで作ったものは、

シャケの塩で焼いて、お米を炊いて盛り付けた、シャケの塩焼き定食。

作り終えると、

「ひーちゃんはゆっくり食べて」

と言い残してコックさんは出て行った。

涼しげな顔をしていたのでよかった。

しかし振り返ると、コックさんはコック帽をかぶってきていたし、あと料理で鶏ガラは一回も使っていなかった。

これがコックさん。

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