日記


今日は、カフェでパスタを食べていると

背後から

ファサアァ 

という音とともに、微風を感じる。

羽の生えた扇子でパタパタしている感じだ。

羽の扇子で誰かが私のことをパタパタしてきているのだろうか。

なんだなんだ

と思って身を縮こませていると、

隣にサラリーマンのお兄さんが座る。

すると、微風と共に、こんどは横から

ファサアァ

と聞こえる。

このファサアァは、お兄さん由来なのか。

と思ってお兄さんの方をチラ見する。

すると、お兄さんの目元に

チラ見でもわかるぐらいのハイパーなまつ毛が茂っていた。

ファサアァ

お兄さん(まつ兄)が瞬きをするたびに起こる、微風と音。

まつ兄のテーブルの上の紙ナプキンが、
束でぶぁさっとなびく。

紙ナプキンにとっては暴風なのだろう。

まつ兄の机に、マルゲリータとホットコーヒーが運ばれてくる。

おいしそう。

「お待たせしました〜マルゲリータランチです」

ホールのお姉さんが机にマルゲリータを置く。

ファサアァ

まつ兄のまばたきとともに、

お姉さんの前髪がなびく。

直後、時間差でお姉さんのスカートがふわっと巻き上がり、

お姉さんのスカートの中が完全に見えてしまう。

お姉さんは恥ずかしそうに顔を赤らめる。

まつ兄も申し訳なさそうに顔を赤らめる。

私も見てしまったのがちょっと申し訳なくなり、
顔を赤らめる。

お姉さんのスカートの中は、素敵だった。

素敵だった。

なんかこう

家族でスペシャル弁当を囲んだ運動会のお昼ごはんの時間を思い出した。

素敵な時間だった。

お姉さんが定位置に戻っていき、

まつ兄はいよいよランチだ。

まつ兄はピザカッターを手に、マルゲリータをカットしにかかる。

半分の半分まで切り分けたところで、

ファサアァ

が来る。

するとマルゲリータの上に乗っていたルッコラが

ふわぁ

と舞い、ビザカッターにぺたっと貼り付く。

ルッコラはなすすべもなく、だらしなく貼りついている。

なすすべない。

なんかこう

運動会で最外周を担当したの台風の目を思い出した。

なすすべなかったなあ。


貼りついたルッコラには構わず、それから無事ピザを8等分に切り分け終えるまつ兄。

まつ兄は、一切れを口に運ぶ。

口を開けたところで、

ファサアァ

来た。

手に持っている部分を軸に、

マルゲリータがハタハタと風になびく。

こんなになびいているピザを見るのは初めてだ。

掲揚された国旗くらいはためいている。

なんかこう

運動会の開会式を思い出した。



まつ兄は、飛んでいってしまわないように

耳の部分をしっかり持っている。

爪の先っぽが白くなるくらい、しっかり。

ようやくひと口運び、まつ兄はにっこりする。

よかったよかった。


2枚目に行く。

ファサアァ

マルゲリータがなびく様はさっき見たばかりだったものの、また笑けてきてしまう。

笑けながらパスタをすすっていると、

隣から

「やっべ」

とまつ兄。

見ると、ハイパーまつ毛にピザソースがべったり付いてしまっている。

やばそう。

目が開けられないまつ兄。

まつ兄はあわあわしながら、手探りでコーヒーカップを掴む。

うんうん一回落ち着こう。

ごくりと一口飲む。

私は自分のパスタに戻っていると、

また

「やっべ」

ともらすまつ兄。

見ると、ハイパーまつ毛はピザソースの上から
コーヒーでコーティングされているではないか。

やばそう。

やばそう。

でもやばい、もう店を出なければならない時間だ。

バイトに行かなければならない。

悲しいけれど。

そのまま店を後にした。

バイト帰りに、コンビニでマルゲリータを買って帰る。

帰り道、ちょっと走ってちょっと転んだ。

擦りむいて痛かった。

運動会を思い出した。

ともあれまつ兄、無事元のハイパーまつ毛を取り戻せているといいな。

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