休日の非日常

仕事が休み。
今日出会った、小さな小さな非日常を書いてみる。


珍しく細身な服を着てみた。
いつもは、ぶかめの、ゆったりした服を着るんだけど。
(ぶかめって方言なんでしょうか)

色も、地味なのが多いのに、今日は赤。
赤と言っても、えんじ色に近いような暗めなやつ。
でも、私としては、立派な赤色。


用事があって、午前中は6階にいた。
まわりには、高い建物がなく、6階からでも遠くが見渡せる。
高架を走るトラックが見えた。

窓ガラスを挟んだ向こう側。
遠近法で小さく見えるトラック。
音もなく、揺れもなく、迷いもなく進むように見える。

トラックが向かう少し先に目をやると、親指一本分くらい上方、飛行機が飛んでいる。
真新しい消しゴムのように、白くさらさらした飛行機が、トラックとすれ違う。

ここから見ると、1つの絵。
指の長さにおさまる距離で、物音1つたてず、少しずつ変わっていく。

本当は、それぞれ離れた場所を、ものすごい速さで、騒がしい音を立てながら、どこかへ向かっている。
トラックも、飛行機も。
そう思うと、急に自分が切り取られた気分になった。

昔から、窓際が好きなんだ。


用事が一段落して、休憩。
水筒を忘れたので、少し離れた自販機に向かう。

風が強い。
急いでいるわけでもないのに、風に向かって小走りする。
風を受けて進まない体が、どこか心地いい。

自販機の前で、思い出した。

昨晩、コンビニで残り1枚の千円札を出すか、それとも、一万円札を崩すかで、迷ったことを。
そして、まあいいか、と思って千円札をカードにチャージし、支払ったことを。
小銭は、ほとんど無かったことを。

自販機の前で、財布を開くと、一万円札と、百円未満の小銭たち。

自販機のお札が入るところの透明なカバーには、四角に囲まれた1000という白い文字。

一万円札を差し込んでみた。
ウィンと聞こえて、お札が持っていかれそうになり、入るのかと思うも束の間。
ウィンウィンウィンと、吐き出される。

強い風に背中を押されながら、6階に戻る。


用事が済んで、歩き出す。
帰り道、いつもなら使わない歩道橋を渡ってみる。

近くに歩道があるし、田舎だし、歩道橋にいるのは私だけ。
歩道橋の真ん中で立ち止まる。
そばにある信号機が赤になり、私の足元へ、引き寄せられた車が順々に止まっていく。

夏休み、こっそり持ち出した砂糖の山から、できていったアリの行列を、汗だくになって眺めたときと似た気分だった。

ただ、風は冷たい。
そして、少し大人に疲れた。
汗だくになるまでその場にとどまる熱狂を、永遠とその行く先を見ていられると信じてやまない気概を、私は持てなかった。

もう同じようには持てないかもしれないけれど、昔、確かにもっていた子どもの記憶だけでも持っていたいと振り返る。

信号待ちの車の列を、「おっかしいよ」と一瞥(いちべつ)して、すぐに歩道橋を離れた。

そんな自分が、おかしくてたまらない。


玄関先に座り込んだ。
(もちろん自分の家の)
たまにある、家に帰りたくない症候群。

玄関まで来て発症。往生際の悪さ。

とりあえずスマホをひらく。
玄関でも、うちのWi-Fiは繋がると気付き、私はもう家に帰ってしまったのか…と屁理屈ならべて、玄関の鍵を開ける。


日常から切り取った非日常。


明日は、どんなピースを切り貼りし、1日を組み立てるだろう。

歪(いびつ)なピースを、はめ込めるだけの優しさをもちあわせていられるだろうか。


#日記 #日常