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面白いから好きになる 伊藤沙莉の歌声と浅田真央の難解なプログラムと

俳優の伊藤沙莉さんが歌う、「光る野原」を聴いた。

これは、水野良樹さんのプロジェクト・HIROBAの楽曲。水野さんが作った、いきものがかりの「ありがとう~♪」で始まるわかりやすい楽曲とはうってかわって、ポップで盛り上がるタイプの曲じゃない。歌いづらそう(難しそう)。息をつめて歌詞を聴いている間に終わる。

この歌を聴いていて、浅田真央さんが2010年、バンクーバーオリンピックで選んだフリープログラム、ラフマニノフの「鐘」を思い出した。

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初めてこのプログラムを見たとき、重々しく、大きな盛り上がりがないまま終わる曲調に、可憐な真央ちゃんのキャラクターに合ってないんじゃないかと思った。最初は。

それが、回を重ねるごとに、真央ちゃんがプログラムを自分のものにしていく過程が見えて、目が離せなくなった。

サビの部分でドラマチックに盛り上がるエンターテイメントを感じる曲調とは対極にある世界。わかりやすい楽しさとか美しさとは違う、このわからなさが逆に面白く感じた。

それに挑戦した真央ちゃんと、導いたタラソワコーチにロックを感じた。

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同じ時期、ライバルのキム・ヨナは、ジェームス・ボンドのテーマ曲を選んだり、わかりやすいエンターテイメントの魅力がつまったプログラムを見せていた。

それに加えて、オーサーコーチは採点ルールを熟慮した点を取れる演技構成を組み、勝ちに行くプログラムを作った(真央ちゃん側は、そういう戦略を立てているようには見えなかった)。

真央ちゃんのも、キム・ヨナのプログラムも、魅力的だった。でも、真央ちゃんには規定路線じゃない「面白さ」があった(その前のシーズンに選んだ「仮面舞踏会」も、ありきたりでない面白さがあった)。

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伊藤沙莉さんの「光る野原」も、歌いやすい楽曲ではなさそう。でも、歌うごとに沙莉さんの身体になじんでいくんじゃないかと思った。

地に足ついたハスキーな沙莉さんの歌声。歌うごとに、聴くごとに、歌の世界がじんわり豊かに育っていくような、とらえどころのない魅力を感じた。

沙莉さんのことを知ったのは、朝ドラの「ひよっこ」で、お米屋さんの娘を演じていたとき。このときの登場からして、なんか、この人、面白そう。と思った。

2021年6月8日、「伊集院光とらじおと」(TBSラジオ)のゲストコーナーに招かれ、話しているのを聴いたとき、これがまた実際にお話が面白かった。

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この番組のゲストコーナー。伊集院さんの聞き手としての力量と、約30分のたっぷりした時間が相まって、聞き応えあります。

聴いてよかったと思う放送に出会えることも、たびたび。その人の言葉で、そのときの心持ちを飾らないで語るゲストに魅了されることが、しばしば。

俳優さんに限って言えば、松岡茉優さん、岡山天音さん、上白石萌歌さん、中川大志さん、満島ひかりさん、そして伊藤沙莉さんの話しっぷりは、とりわけ脳に残ってます。

俳優は演技力が問われるもの。番外編のトークが面白くなくてもいいんです。その人の持っている地力みたいなものは、素が垣間見えるトーク番組でなくても、演技の仕事をしているとき、役を演じているときにも、見ている側に伝わるものだと思う。

でも、話の面白い人に出会うと、その人のことが好きになったりする。

「感じがいい」とか、「きれい」とか言われる以上に、面白がってもらえた時、一番嬉しかったりする。

「面白い」は、最高のほめことば、です。

ようこそ。読んでくださって、ありがとうございます。