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その日

その日は雨が降っていた。雨と霧の境目みたいなささやかな雨。みずたまりの表面をうるうるとゆらすくらいの。
私はバス停でバスを待っていて、時刻表の上に貼られた、今月末で廃止されるバス停のリストを眺めていた。聞いたこともないようなバス停ばかりで、出会いもしないまま、静かに止まっていくものがたくさんあるのだと思った。
体を伸ばすと、思いきり膝が鳴った。さびついている、油をさしてあげなくては、と思った。鳴った、と、思った、がどこか似ている気がして(今思うとどうしてそう思ったんだろうね)、そこから私の思考は加速した。とめどなく言葉が溢れて、どれも繋がりも脈絡もなくて、それが愉快だった。
ふいにバスが来て、波うっていたみずたまりの表面を派手に跳ね散らかした。不意うちを食らった私は、お芝居みたいに大げさに驚いてしまった。

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