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【読書感想】弥勒の月 あさのあつこ

この本の概要

小間物問屋遠野屋の若おかみ・おりんの水死体が発見された。同心・木暮信次郎は、妻の検分に立ち会った遠野屋主人・清之介の眼差しに違和感を覚える。ただの飛び込み、と思われた事件だったが、清之介に関心を覚えた信次郎は岡っ引・伊佐治とともに、事件を追い始める…。“闇”と“乾き”しか知らぬ男たちが、救済の先に見たものとは?哀感溢れる時代小説。

「BOOK」データベースより

感想

ハマれる小説をさがしてたところ、おもしろそうな時代小説を発見!気になって買いました。

キターーー(^。^)
久しぶりに読んでてグググっと入り込む小説に出会えました。
しかもシリーズもの。
しばらくの間はこれで存分に楽しめそうでめちゃくちゃワクワクしてます。いいシリーズものに出会えるのは本当に幸せ❤️

この物語のおすすめポイントは以下です。

1)同心・木暮信次郎と岡っ引き・伊佐治の関係性

伊佐治は、信次郎の父親・右衛門の頃からの岡っ引きで、右衛門の死後、若い信次郎から改めて手札をもらい働いています。
が、親の右衛門と違い、情が感じられず何を考えているのかわからない信次郎を時に恐ろしく感じていて、「もう岡っ引き、引退しようかな」とか考えてます。
若い上司の信次郎と、ベテラン部下伊佐治の微妙で絶妙な関係性がとてもよいです。
二人の会話には主従はあるものの、時に親と子のようなところもあり、性格が微妙な信次郎もなんだかんだ伊佐治には心を許してる部分も多少はありそうです。

2)信次郎の人柄が微妙

信次郎は頭はめちゃくちゃ切れるものの、キレキレすぎてどこか日常に退屈しているところもある男で、主人公格であるにも関わらず、人柄があんまり良くありません(笑)
同心だけど、平和を愛する同心でもないので、下手人が出ない自殺だと「つまらん」といい、謎が多い事件は面白がります。
あんまり性格良くないけど、なんか不思議と気になる人です。

3)おりんの夫・遠野屋清之介が謎

物語は小間物屋の若女将おりんが川に落ちてしんだところから始まるんですが、このおりんの夫である清之介が謎すぎて気になります。
清之介と信次郎のやりとりが緊張感あって最高。

シリーズで10作以上でてるようなのでこれからしばらくはこのシリーズを読んでいこうと思います!

ワタクシ的名言

人は尊いものだ。伊佐治はそう思っている。獣に落ちず、人の埒内でかろうじて生き抜いている者なら、誰でも尊い。弥助は、夜商いの蕎麦屋に過ぎない。一杯十六文の蕎麦を夜の中で売る。それだけの人間だ。それでも尊い。おりんのことで聞き込みをした時、松井町の曖昧宿の女が「あの爺さんの蕎麦を食べるのだけが楽しみでさ」そう言って、にんまり笑った。白粉を塗ってさえ隠し切れない小皺と荒れた肌の目立つ女の笑った顔だった。
奈落に落ちて身を売っている女をあんなふうに笑わせることが、あんたたちにできるのかい。できねぇなら損だの得だのと、したり顔でしゃべるんじゃねえ。

p165 奈落の月

伊佐治はとても真っ当で人情もあり義理堅い男で、この作品にでてくる人々のなかでももっともまともな人です。なので、若い信次郎と清之介が事件について世間話をするように話をしている状況に嫌悪感を覚えます。そのとき、伊佐治の心に浮かんでいた怒りを表したのがこの文。
人は容易く獣になってしまう。獣になるか、人でいつづけられるかはほんの少しの差なのかもしれない。私もそう感じるので、ただただ真っ当に生きている、それだけで人は本当に尊いなぁと思います。
数万の人や世界を救うような大きなことができなくても、ほんの少し近くにいる誰かを笑顔にしている、それだけでも私たちはすごい。


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