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ジュエリーアイ  ⑬

「おかえり、姉さん」

 家に戻ると玄関ポーチに弟が座っていた

「ただいま」

「あれ?今日は美術館に行くから、遅くなるんじゃなかった?」

「ああ、うん。なんか疲れてやめちゃった」

「そっか」

 私は、弟の隣に座った。姉弟で隣り合わせで座るのは久しぶりだった

「もう少しだね、眼の手術」

「うん。だね」

 弟は少し黙ったあと、顔を下に向けながら口を開いた

「あのさ、もし手術受けないって言ったら、怒る?」

 私はその言葉に少し動揺したが、なんでもないような声を出した

「怒らないよ。でも、楽しみにしてなかった?」

 弟はまた黙った。穏やかな風が、また私の前髪をゆらし、毛先が目元かかる。私はそれを払いながら、黙って自分の足元を見ていた。弟は顔をあげると、前を向きながら言った

「無料で手術を受けるのを待とうと思うんだ。あと、来週から働くことにした」

 その言葉に私は驚いて、弟を見る。弟はちらりと私を見て、またすぐに前を向いた

「結構さ、無料の手術を待っている人っているんだね。今日、職業斡旋所で知り合ったやつとか、あと3年待ちだよーって笑ってたし、他にも同じ2年待ちのやつもいた。なんかあいつら明るくってさ。久しぶりにゲラゲラ笑った」

「そっか」

「だからさ、姉さんが先に手術を受ければいいんじゃない?」

「......私はあと1年だから、大丈夫だよ」

「手術受ける受けないは、姉さんに任せるよ。ただ......」

 弟はまた私の方をちらりと見た。薄暗闇の中でも距離が近いので、弟の瞳の青さがわかった

「姉さんには、幸せになって欲しい」

「幸せに?」

「うん」

 私は戸惑った。自分が幸せになるという言葉を久しぶりに聞いたような感覚になったからだ

 私は弟を見つめた

 弟は私を見つめ、軽く肩をすくめた

 私は湧き上がる衝動を抑えきれずに立ち上がると、「ごめん、やっぱり美術館に行ってくる」と言って、急ぎ足で歩き出した

 美術館まで、20分ほどかかる

 リアンはまだ待っていてくれているだろうか?

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