見出し画像

ジュエリー アイ   ①

                   望都 もこ

「灯りをつけるよ」

そう言って彼はキャンドルに火を灯した

薄暗闇から彼の顔が浮かび上がってくる

彼の柔らかな緑色の瞳に、キャンドルの炎が揺らいで映っていた

それは、神秘的な美しさを放っていて、思わず私は目を伏せた

        🌟🌟🌟

数年前、世界が突然、原因不明の薄暗闇に包まれた。

一歩外に出れば、霧がかかったように先が見えず、昼夜問わず薄ぼんやりとした明るさしか感じられなくなった

すれ違う人々の顔がまともに認識できなくなり、友達や知り合いは、お互いに認識アラームに登録し合う

手のひらサイズの機械が、お互いに近づいたのをぶるぶると音をたて教えてくれるのだ

アラームの鳴らない相手にはなるべく近づかないようにするのが、最近のマナーになりつつあった


ぶるぶる......アラームの音に、私は少し驚いた

通勤時には鳴ったことがなかったからだ

急いで認識ボタンで誰なのかを確認する

リアン、とでた

リアン?ぼんやりとする視界の中、私は記憶をたぐる。でも思い出せなかった。

相手が近づいてくるのを感じ、私は少し緊張した

お互いの顔が認識できる距離になる前に、私から声をかけた

「リアンさんですか?おはようございます」

「ホルテスさんですか?おはようございます」

薄暗闇の中から、戸惑いながらもクリアなテノールの声が返ってきた

ホルテス?私の名前は、エナだ

誰かと間違えているのではないか、と口を開いたとき、私の記憶の片隅にホルテスという名前が浮かび上がってきた



この記事が参加している募集

#眠れない夜に

69,462件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?