見出し画像

ジュエリーアイ  エピローグ

 「みんな!!起きて!」

 弟の大きな声で、私は目覚めた。玄関の方からしきりに「早く!早く!」と弟の声がする

 重い頭を振りながら、私は玄関の方へふらふらと向かった。同じように起こされた父と母も寝ぼけた様子で、部屋から出てきていた

「外!外見て!」

 弟ははしゃいでいる。その様子に「もう、なんなのよ!」と私は少しむかっとしながら、外へ出た途端、景色が見えることに驚いた

 薄暗闇になってからほとんど見えなくなっていた景色、隣近所の家や近くのマンション、電柱などが、いま目の前に現れていた。私は、慌てて空を見上げる。数年ぶりに見る雲は重い灰色でどんよりと広がっているが、その切れ間から光がうっすらと差し込んでいた

「姉さんの顔がはっきり見えるよ!」そう叫びながら、弟が飛びついてきた。子犬のようにはしゃぐ弟を抱き抱えながら、私は事態を飲み込めるまでに時間がかかっていた

「えっと、太陽がまた見えるようになったってこと?」

「そんなの分かんないよ!でも、姉さんや父さん、母さんの顔がはっきり見えるんだよ!」

 父と母は、私と同じくらいぽかんとした顔をして、玄関先で佇んでいた

空はやがて雲がうっすらとなり白くなり、東の方からオレンジ色の光が一面に広がっていく

「明るいな」玄関に立ち尽くしていた父がぽつりと言った。母は隣で涙を流して頷いている。久しぶりにはっきりと見た両親の顔だった

私と弟は思わず父と母の元へ駆け寄った

そして、家族みんな無言で抱き合った

太陽が見えるようになった理由は、私たちには分からないし、先のことはまだ不確定だ

ただ、今この時が私たちにとってかけがえのない瞬間だということは、心の底から理解できる

私たち家族は玄関ポーチに座り、いつまでもいつまでも空が明るくなっていくのを見続けた

                   

☆☆☆

エピローグはオリジナルにはつけていませんが、最初はこの終わり方にしようと思っていたので、ここではエピローグとして書かせてもらいました。

読んでいただき、ありがとうございました!



この記事が参加している募集

#眠れない夜に

69,179件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?