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ジュエリーアイ     ⑭

 美術館の入り口の前には、広くて長い階段がある。足元に気をつけながら、私は入り口へと急いだ。入り口には人混みができており、賑わった声が聞こえてくる

 ぶるぶる......認識アラームが震える。急いで確認しようとする前に、リアンの声が人混みの賑わいの中からでも、はっきりと聞こえてきた

「ホルテスさん!」

 リアンとおぼしき人が、人混みから離れたところから手を振っているのを見つけた。私はその人の元へと近寄る

「リアンさん、遅れて本当にごめんなさい」

「いいんですよ。こうして来てくれただけで嬉しいです」

「エナです」

 私は緊張しながらそう言った

「私の名前はエナです」

「エナさん、素敵な名前ですね。僕の名前は、最初からリアンです」

 リアンはそう言って笑った。私もつられて笑ってしまう

 リアンが近づいてきて、チケットとキャンドルを渡してくれた。リアンは私より背が高くて、優しげな顔立ちをしていた。今までぼんやりとしか見えていなかったリアンが間近にいるのに、私はまた緊張した

「灯りをつけるよ」

 リアンはそう言って、キャンドルに火を灯した。薄暗闇から彼の顔がはっきりと浮かび上がってくる。彼の柔らかな緑色の瞳にキャンドルの炎が揺らいで映っていた

「エナさんに今日ここで会ったら、言い訳を言うつもりだったんだ」

「私もよ。あと1年後に手術なのって」

「僕は、あと半年だ」

 リアンが微笑んだ

「エナさんの瞳は綺麗な紫色なんだね」

「リアンさんは、美しい緑色ね」

 キャンドルホルダーを持ち、私とリアンは美術館に入った。広々とした美術館の展示室は明るかった。僅かながらも電気が付いており、天井に吊るされたいくつものガラス玉に、あちこちに灯されたキャンドルの光が反射して煌めいていた。作品たちの周りはいくつものキャンドルで照らされて、一層明るくなっていた。私たちはリアンの作品の前にいく

リアンが「実はこの詩は、エナさんが覚えてくれていたものなんです。その詩に付け加えをしたんだ」と恥ずかしそうに言った

『さようなら

突然、私の世界は変わった

楽しかった過去と美しくなるはずだったはずのこれからが、足元に横たわっている

ひざまずいて救おうとしても薄暗闇の中では救えない

やがて薄暗闇に私は飲み込まれていく

力が抜け、横たわり、目だけがようやく開き、私は自分の世界が終わっていくのを瞳を通して感じていた

さようなら

哀れで、寂しくて、苦しい自分

もう何も感じなくていいんだよ


ほっとして目を閉じようとしたときに、誰かがいるのに気がついた

目の前に幸せな自分が、手を差し出して微笑んでいる

「最初からずっと目の前にいたのに」

幸せな自分はそう言った

人は見たいものを見て、見たくないものは見ない

幸せな自分はずっと一緒にいたのに

悲しくても、寂しくても、苦しくても

「また幸せになれるかな」

そう小さな声でつぶやくと、幸せな自分はまた微笑んだ

「いま、幸せな自分が見えていたら、もう幸せになっているんじゃない」

ああ、なんだ

もう幸せになっているのか

さようなら

楽しかった過去、美しくなるはずだったこれから

どんな自分でもいい

自分で選べるんだ

私は手を伸ばして、幸せな自分と手を繋いだ

私は、いま、幸せです 』

 私はそっとリアンを見た。キャンドルの炎に照らされている彼の横顔は、輝いていてとても神秘的に見えた。リアンも私のほうを見ると、微笑んだ

 幸せな自分は、いま目の前に見えている

私はそう感じ、リアンに微笑み返した

                           終わり

読んでいただき、ありがとうございました!感謝☆☆






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