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ジュエリーアイ ⑦
お昼休憩になり、私はいつものようにルルナが待つ休憩室に入った。仕事で明るいデスクライトを使っているので、休憩室の照明の暗さに慣れるまで時間がかかるが、ルルナはいつものテーブルにいるので、私は困ることなくそこへと行ける
今日もテーブルに近づいてルルナに声をかけようとした時、ルルナと同僚たちの話がぴたっと止んだ
「じゃあ、私たちは早休憩だからそろそろ戻るね」
「エナ、じゃあね。食事会でね」
同僚たちの表情はよく分からなかったが、少し戸惑った雰囲気だけは伝わってきた。その同僚たちとは、私も仲がいい。みんな遠慮せずに話す仲なので、少しひかかったが、すぐに彼女たちの話題を察知した
「エナ、食事会は絶対きてね」
ルルナが取りなすように言う
「もちろん!絶対行くよ」
明日は仲の良い同僚たちとルルナの家でお祝いの食事会に参加する予定になっている。親しいものだけの会なので、私も気楽だった
「さっきは式の流れを説明していたのよ」
ルルナの声が少しぎこちなく聞こえるのは、私の気のせいだろうか
「そうなんだ」
私は明るい声を出した
親しい同期の間で私だけ、結婚式には参加しない。彼女たちの中で私だけ、ジュエリーアイではない。きっと結婚式に呼ばれている人達の中で、ジュエリーアイではない人はいないだろう
ルルナには式への参加を懇願されたが、うちの事情を話してあるので、お祝いが出せないことを理由に断った。
それに、ほかの出席者たちがその輝く眼で自分をどんな風に見るのか、考えただけでも耐えられそうになかった。たとえ耐えられたとしても、着ていくドレスすらも私には用意できそうになかった
ルルナは残念がっていたが、それ以上は何も言わなかった
親友であるルルナの式に行かないのは、私も辛い。でもルルナの前では努めて自然に結婚式の話をだし、ルルナも自然に答えていた
ルルナの優しさが嬉しいと同時に、私の中に広がる暗闇は止められない
仕方ないのだ。そう、どうしようもないことなのだ。私は自分に言い聞かせる
「食事会楽しみだな。みんなで集まるなんて久しぶりじゃない?」
私は、声のトーンが暗くならないように気をつけて言った
「そうだよね!本当に楽しみにしているのよ」
明るいルルナの声に私は救われている。きっと彼女のパールピンクの眼も薔薇の瞳も、彼女の人柄のように美しく潤んでいるのだろう。
あと1年。あと1年乗り越えれば良いのだ
今日はいつにも増して階段の暗闇が恐ろしかった。ちょっとしたことですぐ自分自身のバランスを失いそうになる
どうにかビルの外へ出ると、私は大きく深呼吸した
家に帰ろう
私は歩き出した
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